イロハ

今さら聞けないテニスのイロハ ~第12回 5セットマッチについて~

写真は意見の分かれているジョコビッチとフェデラー

プロテニスの試合はそのほとんどが2セット先取で勝利となる3セットマッチ。でも四大大会の男子シングルスと「ウィンブルドン」の男子ダブルスだけは、3セット先取で勝利となる5セットマッチです。そんな5セットマッチをめぐり、もう止めるべき、逆にもっと増やすべきという論争も起きています。この5セットマッチについて今回はご紹介しましょう。

■四大大会の男子シングルスでは100年以上続く伝統

四大大会の始まりは、最も古い「ウィンブルドン」が1877年、「全米オープン」が1881年、「全仏オープン」が1891年、「全豪オープン」が1905年ですが、そのうち「全仏オープン」を除く3大会では男子シングルスは最初から5セット制でした。「全仏オープン」では大会が始まった1891年から1903年まで3セット制でしたが、1904年から5セット制となりました。つまり、四大大会の男子シングルスは5セットマッチであることが伝統で、はっきりと他の全ての大会と違う点なので、そのこと自体を「価値」と考える人々もいます。そしてもし四大大会の男子シングルスを3セット制にしてしまったら、それ以後のチャンピオンはそれより前の、5セット制で優勝したチャンピオンたちと同じぐらい強いとは言えない、という考えもあるようです。

例えば、それまで2年続けてロジャー・フェデラー(スイス)に敗れていたラファエル・ナダル(スペイン)が、ついにリベンジを果たし初優勝を遂げた2008年の「ウィンブルドン」決勝のような「テニス史に残る名勝負」の多くは5セットのフルセットマッチだった、と5セット制擁護派の人々は主張します。5セットがあって初めて、一進一退の攻防で5セットを戦う選手たちが気力と体力の限界まで試される、といったドキドキハラハラのフルセットの試合を観客は見ることができるのです。

選手の間でもファンの間でも、5セットマッチで勝利するには卓越した技術、体力、気力が必要だから、5セットマッチを戦い抜いた者こそ真の王者、といった感覚もあるようです。実際、フェデラー、ナダル、ノバク・ジョコビッチ(セルビア)といった選手たちは、いずれもキャリア勝率82%前後ですが、四大大会での勝率は更に86~87%にまで跳ね上がるのです。ただ、5セットマッチという過酷な試練によってその強さがより明瞭になるからなのか、あるいは四大大会という大舞台でこそよりギアを上げる王者のメンタリティのせいなのかはわかりませんが。

■3セット制でなければテニスが衰退する?

ですが、四大大会の男子シングルスも3セット制にすべきだ、という意見もあります。テニス・レジェンドの一人で、四大大会の女子シングルスで12回の優勝を遂げているビリー・ジーン・キング(アメリカ)はその理由を「5セットマッチで体力・気力を使い果たすことは、男子選手たちの選手生命を縮めている。それに、現代の若い人たちの集中力は長く続かない。人々は長い試合よりも、面白い試合を求めている」と述べています。

また、一つの試合があまり長引くと、選手の疲労やケガの原因になるだけでなく、観客の帰宅に不便を生じたり次の試合が翌日に回されるなど、スケジュール上の不都合を引き起こす可能性もあります。

■1970年代に部分的に試された四大大会の3セット制

上記のような理由から、四大大会の男子の試合も3セット制にすべきだ、という意見はあります。ただ部分的にではありますが、実はそれが試されたこともあるのです。1973年と1974年に「全豪オープン」男子シングルスでは1回戦のみ3セットマッチで行いました。「全仏オープン」では1973年から1975年までの3年間、1回戦と2回戦が3セットマッチに。「全米オープン」では、1975年・1976年・1978年は1回戦から3回戦まで、1977年には1回戦から4回戦までが3セット制で行われました。

「全米オープン」の場合は、1975年にサーフェスが芝からクレーに変わったので、ラリーが続いて試合時間が長くなることへの懸念から、3セット制が取り入れられたそうです。ところが1979年には会場が現在も使われているナショナル・テニス・センターへ移って、サーフェスがハードになったこともあり、5セットマッチに戻されたということです。1977年に「全米オープン」に初出場したジョン・マッケンロー(アメリカ)によれば、「当時のトップ選手たちは、5セットマッチの方が体力が必要だから、より強い選手に有利だと考えていた」そうです。いずれにせよ、これらの試みが全てわずか数年で終わってしまったところを見ると、選手にもファンにも大好評というわけではなかったのでしょう。

■現役選手の中でも分かれる意見

現役選手の中でも意見は分かれているようです。例えばフェデラーは「四大大会だけではなく、ATPマスターズ1000大会やATPファイナルズの決勝でも、5セットマッチを採用してもいいのではないか」と述べています。けれどもこれに対してジョコビッチは「四大大会でも3セットマッチでいいのではないかと思う。若い世代のファンたちは、集中力が長く続かないし、物事が素早く進むことを好む。だから若い観客を増やしたければ、試合はもっと短い方がいい」と反論しています。そして元世界王者のアンディ・マレー(イギリス)は、「選手としては、5セットマッチが好きだ。トレーニングや、自分が一生懸命やってきたことが報われる気がするから。でも観客としては、5セットの試合はとても長く感じる。試合が思ったより長引くようなら観戦後の予定も立てられないし、翌日仕事があるなら途中で帰ることになる。長すぎる試合はテニスにとっていいとは言えない」と話しています。

長いからこそ途中で何度も流れが変わったり、選手たちの信じられないような耐久力や根性を垣間見ることのできる5セットマッチ。短いから、一つ一つのポイントがより重みを持ち、スピーディーに結果を見ることのできる3セットマッチ。2018年までは5セット制だったデビスカップは、2019年から3セット制を採用することが決まっています。テニス以外のスポーツでも「より速い展開」が好まれる現代、果たして5セットマッチは生き残れるのでしょうか。

(文/月島ゆみ)

※写真は意見の分かれているジョコビッチ(Photo by Lintao Zhang/Getty Images)とフェデラー(Photo by Naomi Baker/Getty Images)

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