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秋山英宏コラム

大会序盤の大番狂わせ。18歳のアルカラスがチチパスを破る

写真は「全米オープン」でのアルカラス

ボールのスピードがものすごく速かった。あんなに強いボールを打つ選手は見たことがない」


 敗れたステファノス・チチパス(ギリシャ)が嘆いた。男子シングルス第3シードで優勝候補の一角を倒す番狂わせを演じたのは、18歳のカルロス・アルカラス(スペイン)。世界ランキング55位、全米オープン初出場の18歳だ。

昨年の序盤は下部ツアー「フューチャーズ」を中心に回っていた。8月にイタリア・トリエステでATPチャレンジャー初優勝、その後ランキングを上げ、全仏で四大大会の予選に初挑戦した。本戦には今年の全豪で初出場を果たしたばかりだ。


チチパスならずとも驚くパフォーマンスだった。ストロークの強さ、精度はツアーのトップクラスに引けをとらない。ドロップショットロブなどコートを立体的に使い、パッシングショットの厳しさも一級品だ。ネットを取るタイミングも完璧で、百戦錬磨のベテランと遜色ない。


特筆したいのは、あきらめない勝負根性だ。第3セットは2-5から大逆転で奪った。第4セットを0-6で失ったときには、エネルギー切れかと思われた。アルカラス自身、「第3セットの終わりには体力的に限界を感じていた」と明かした。ところが、最終セットにはチチパスも「別人のようだった」と驚く急回復を見せるのだ。


第4セットでは体力を温存し、どう巻き返すか思案していたはずだ。「第5セットのスタートでは、今までで一番アグレッシブなプレーをプレーをしなければならない」。そうして、アルカラスはそれを実際にやってのけるのだ。


第4セットをあのような形で失ったあと、彼がここまでレベルを上げるとは思っていなかった」。6-0でセットを取って気を抜いたわけではないはずだが、この復活はチチパスには大誤算だったか。


精神的に再び優位に立ったアルカラスは、その勢いを最後まで失わなかった。最終セットのタイブレークをアルカラスが振り返る。


「僕はあきらめなかった。最後のポイントまでアグレッシブにいかなければならないと思っていた。それができたと思う」


トップ10選手にはこれが初勝利。アルカラスは「何が起こったのかわからない。チチパスに勝ったなんて信じられない。夢のような出来事だ」と感激にひたった。


全米でトップ3選手を破った選手では、1973年のコンピュータ・ランキング導入以降の最年少となった。なお、アルカラスは今大会の1回戦でキャメロン・ノリ-(イギリス)を破り、ビヨン・ボルグらに次いで5番目(1968年のオープン化以降)の若さで四大大会のすべてで勝利を収めた選手となっている。


スペイン出身、若くして成功を収めたこと、さらに野性味を感じさせる激しいプレースタイルから、ラファエル・ナダル(スペイン)を連想する向きも少なくないだろう。少し前からナダルの後継者と目されていたのも事実だ。試合後の記者会見で「自分のプレーに似ていると思う選手、あるいは真似をしている選手は?」と聞かれると、こう答えた。


「正直、僕はどの選手のスタイルもコピーするつもりはない。自分のゲームをするだけだよ。ただ、強いて挙げるなら(ロジャー・)フェデラー(スイス)だ。常にアグレッシブであろうとする姿勢が僕に近いと思う」


質問者は「ナダル」と言わせたかったはずだが、うまくかわされた。そのナダルとは、この5月、マスターズ1000のマドリード大会で初めて対戦した(1-6、2-6の敗戦)。対戦が決まると、アルカラスはこう話した。


「夢がかなった。スペインの観客の前でラファと対戦できるなんて。この瞬間を絶対に忘れないし、彼から学びたい」「ラファは子供の頃のアイドルの一人。対戦は特別なものになる」


 一方、別の機会に、こんな発言もあった。


「僕はいつも、ラファと比較されるのは好きではないと言っている。僕は自分の道を切り開いていかなくてはならない」


ナダルはあこがれの選手だったが、「ナダル2世」になるつもりはないという自負がそう言わせるのだ。


コーチは、かつての世界ランキング1位、ファン カルロス・フェレロ。アルカラスの将来性については「僕は良いキャリアを積んだが、彼はもっといける」と太鼓判を押す。母国の英雄がケガで欠場したこの大会で、アルカラスはその「自分の道」に大きな一歩を刻んだ。


(秋山英宏)


※写真は「全米オープン」でのアルカラス
(Photo by Matthew Stockman/Getty Images)

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