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秋山英宏コラム

傷心のシャポバロフにジョコビッチが掛けたひとこと

写真は「ウィンブルドン」でのシャポバロフ(手前)とジョコビッチ(奥)

満場の喝采を浴び、二度三度、目頭を押さえながら、デニス・シャポバロフ(カナダ)がセンターコートをあとにした。

どのセットもノバク・ジョコビッチ(セルビア)と互角の戦いを演じた。第1セットはサービング・フォー・セットまで持っていった。だが、結局、1セットも奪うことができず、ストレートで敗れた。


ジョコビッチにはこれで7戦全敗となった。ジョコビッチが四大大会の準決勝をプレーするのは41回目で、この勝利で30勝に到達した。2015年以降では16大会で15勝1敗と無類の強さを誇る。大会中盤を無事に乗り切って準決勝まで来れば、ほぼ間違いなく決勝に進んできたのだ。一方、シャポバロフが四大大会で準決勝に進んだのはこれが初めてだった。


シャポバロフが退場時の心境を明かしている。


「最悪だった。ひどい気分だった。(しばらく時間が経った)今も、ひどい気分なんだ。それも当たり前だと思う。チャンスがあると感じていた。自分の思い通りになると思っていた。それがかなわなかったのだから、心が痛む」


試合はほぼ互角で、シャポバロフが支配する時間帯も長かった。ところが、どのセットも、たった数本のミス、あるいはちょっとした迷いや焦りが命取りになった。


ブレークポイントは3セットで11回あったが、ブレークに成功したのは序盤の一度きりだった。ファーストサーブ時のポイント獲得率は79%に達したのに、どのセットも大事なところでブレークを許した。3度の痛恨のブレークダウンには、ダブルフォールトやアンフォーストエラーもからんでいた。


内容的には、勝っていてもおかしくない試合だろう。だが、それには「相手がジョコビッチでなければ」という前提が必須だ。ジョコビッチは勝負どころでの失態を見逃してくれない。あるいは、大事な場面で必ず相手に失態を強いる、というべきかもしれない。


ジョコビッチの視点で試合を振り返ると、どうなるか。


「第1セットは彼にサービング・フォー・セットがあったし、第2セットもほとんど彼の方が優勢だった。チャンスはたくさんあって、ただ、最後までやり遂げることができなかったというだけだ」


シャポバロフに押され気味だったことを認めた上で、ジョコビッチはこう続けた。


「大事な場面では、彼より僕のほうが緊張を抑え、彼にもう一本多く打たせたり、アンフォーストエラーを誘うことができたと思う。彼はプレーヤーとして成長している。前より我慢強くなっている。ポイントの組み立て方も分かっている。ただ、残念ながら、大事な場面でその部分が欠けていたのかもしれない。僕は彼にエラーをするように仕向け、適切なタイミングで適切なショットを打つようにしていた」


まさにそこがジョコビッチの強さの秘訣なのだ。いや、秘訣というほどのものではなく、対戦したシャポバロフは、この点での相手との隔たりを、選手としての成熟度の差を感じていたのかもしれない。


スコアも内容も、一方的なものではなかった。だが一方で、すべてはジョコビッチの手のひらの上での出来事、そんなふうにも思える3セットだった。シャポバロフが同じように感じていたとしても不思議ではない。


人間という生き物は複雑だから、シャポバロフの胸の内には様々な感情があったはずだ。


「自分はトロフィーを懸けてプレーすることができると感じていたから、僕はこれだけ傷ついたのだと思う。今まで感じたことのない感覚で、だからこそ、とてもつらかった。ノバクにまさっていた部分もあったと思う。ノバクに勝てれば、誰にでも勝てるんだ。とてもつらかった。この1カ月、この2週間はとても長かった。プレッシャーと精神的な疲労があった。自分をコントロールする前に、すべてがコートにこぼれ落ちてしまったような気がする」


百戦錬磨のジョコビッチに味わわされた屈辱と、地団駄を踏むような思い、さらに、トロフィーに近づき、結局、目の前で扉を閉められた口惜しさ--様々な感情がコートを去るとき、一気にこみ上げたのだろう。


シャポバロフは、試合後にジョコビッチとやりとりがあったことを明かしている。


「ロッカールームで僕のところに来て、言葉を掛けてくれた。『君にとって今がどれほど大変か、よく分かる』と。そうして、『すべてうまくいくよ』と言ってくれた。彼からこんな言葉を聞けるのは素晴らしいことだ」


シャポバロフはこのやりとりを「大きな意味のあること」だったと話している。ならば、その恩に報いる方法は一つしかない。いつか、同じようなスコアでジョコビッチに勝ち、地団駄を踏ませることだ。


(秋山英宏)


※写真は「ウィンブルドン」でのシャポバロフ(手前)とジョコビッチ(奥)
(Photo by Julian Finney/Getty Images)

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