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秋山英宏コラム

リターンの不調に泣いた錦織。伝家の宝刀が機能せず

「ウィンブルドン」での錦織圭

錦織圭にとってもっとも頼りになるショットがリターンだ。相手がどんなビッグサーバーでも、反応の速さとテクニック、予測力と調整力を駆使してブレークの機会を探る。サーブは十人並みの錦織が、すべての四大大会でベスト8以上の好成績を残してきたのは、このリターンがあるからだ。

ところが、このウィンブルドン2回戦は、リターンで負けた。


ジョーダン・トンプソン(オーストラリア)のサーブが終始、素晴らしかったのも確かだ。ミスの目立つ錦織のフォアにサーブを集める巧妙さもあった。ストローク戦でも極めてミスが少なく、錦織には重圧がかかった。ただ、本当の敗因はそこではない。


試合後の記者会見で錦織は「相手のサーブのどこが難しかったのか」と問われ、相手サーブではなく、自身のリターンに問題があったことを強調した。


「(サーブが)コーナーに入ってきたのもあるが、そもそも自分の(リターンの)特にフォアハンドが、1セット目、2セット目はまったく入らなかった。今までにないくらい、まったく入らなかったので、なかかなリズムが作れず、チャンスもほぼなかった。最初の2セットは、ずっと、つらい感じでゲームが進んでいた。イップス的な感じだった。急に入らなくなった。治ったのでよかったが、理由も分からず(入らない)という感じだった」


うまくタイミングが合わないのは見て取れた。思うようにいかないリターンゲームにフラストレーションを溜めているのは明らかだった。低調なリターンゲームがプレーのリズムを壊し、相手の勢いを増幅させた。それにしても、「イップス」(突然、思い通りの動作ができなくなること)というのはかなり強い言葉だ。そう表現するしかないほど、違和感があったのだろう。


その違和感を検証するために、スタッツ(統計)と映像で改めて確認することにした。


スタッツには苦い戦いの跡が残されていた。トンプソンのファーストサーブ時のポイント獲得率は81%に達し、錦織の64%を大きく上回った。また、トンプソンのフリーポイント、つまりエースやサービスウィナーと錦織のリターンミスの合計は48本に達した。


錦織のリターン時のフォアハンドのフォーストエラー(相手に強いられたミス)は25本で、バックハンド・リターンのフォーストエラー7本より格段に多い。この数字は、フォアのリターンが「まったく入らなかった」という本人の印象を裏付ける。つまり、ラケットは届いているのに、ことごとく返球に失敗したのだ。


トンプソンは相手のフォアのリターンの不調を見抜いたのか、ファーストサーブで徹底的にフォアをついた。デュースコートでワイドに打ったのが55%、アドコートではセンター~ボディ、つまり錦織にフォアでリターンさせようというサーブが68%もあった。フォア側へのサーブは逆襲のリスクもあり、これだけ増えることはなかなかない。より大きなリスクのあるセカンドサーブでも、フォア側に打ったものが60%に達し、その徹底ぶりが分かる。


次に、ウィンブルドンのメディア用ウェブサイトで、錦織のフォアハンドのエラーの映像を抜き出して見直した。すると、スタッツが示すように、不調は「アンフォーストエラー」ではなく「フォーストエラー」に色濃くあらわれていた。ラケットは十分届き、普段なら鋭いカウンターを突き刺す状況なのに、ショットをコントロールできていない場面がほとんどなのだ。


違和感が頭をもたげ始めたのは、第1セットの中盤のようだった。まず、デュースコートのワイドのサーブに苦しみ、ミスを続けた。相手のセカンドサーブに対し、安全策のブロックリターンを選択しながらネットに掛けるミスもあった。そのうち、フォア側の比較的甘いコースに入ったサーブをネットに掛けるミスも出てきた。


第2セットでは、アドコートのフォア側に入るサーブをことごとく返球し損なっている。言葉に出したり、ラケットを投げる素振りを見せたり、靴のアウトソールをたたいたりと、少しずつ苛立ちが表に出てくる。第3セットも中盤になって、ようやくこうしたミスが目立たなくなった。


スタッツは数字の羅列だが、こうして映像でミスばかり見直す作業は楽しいものではない。実際に体感する選手はたまったものではないだろう。だが、この作業で試合内容がより明確になった。トンプソンが手がつけられないような好プレーを続けたにせよ、錦織のリターンに大きな問題があったという事実が突きつけられた。


初戦ではまさにそのリターン力で、ビッグサーバーのアレクセイ・ポプリン(オーストラリア)から3セットを連取したのだが、この2回戦ではリターンが完全に空回りした。リターン名手がリターンに泣く、そんな試合だった。


(秋山英宏)


※写真は「ウィンブルドン」での錦織
(Photo by Mike Hewitt/Getty Imagess)

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