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秋山英宏コラム

チチパスとズべレフのライバル物語がここから始まる

写真は2021年「全仏オープン」でのチチパス(左)とズべレフ(右)

準々決勝でダニール・メドベージェフ(ロシア)を破ったステファノス・チチパス(ギリシャ)は、準決勝でもう一人の好敵手アレクサンダー・ズベレフ(ドイツ)と顔を合わせた。

22歳305日のチチパスと、24歳54日のズベレフ。全仏の準決勝では、2008年に22歳のラファエル・ナダル(スペイン)と21歳のノバク・ジョコビッチ(セルビア)が戦って以来の、若手同士のマッチアップだという。ズベレフは昨年の全米で決勝進出を果たしていたが、チチパスには四大大会で決勝の舞台に立った経験はなかった。


準決勝進出を決めたズべレフのコメントが印象的だった。


「ここ数年は自分にプレッシャーをかけすぎていた。メディアでも、メドベージェフやチチパスが登場する前は、いつの日かテニス界を支配するのは僕だと見られていた。(そのことで)僕も自分にプレッシャーをかけていた。状況に対処する方法を少し学び、今では少し落ち着いてプレーできるようになった」


ズベレフ世代という言い方が一般的かどうか分からないが、世代を引っ張るのは若くして頭角をあらわしたズベレフであったことは間違いない。自他ともに認めるナンバーワン候補にかかる重圧は、並大抵のことで振り払えるものではなかったのだ。


それでも、ひとつ年長のメドベージェフが19年全米で決勝に進出するなど、年齢の近い選手の台頭で重圧はいくらか軽減したのだろう。


長距離走では、先頭を単独で走るより、並走し競り合う相手がいたほうが好記録が出やすいという。テニスでも「ビッグ3」の関係が象徴するように、ライバルの存在は選手を高めてくれる。今、そのビッグ3を追走するのが、メドベージェフとドミニク・ティーム(オーストリア)、チチパス、ズベレフ、アンドレイ・ルブレフ(ロシア)らが形成する集団だ。ズベレフはその「集団走」の恩恵を受けたというべきか。


もちろん、グループの中でも競争は熾烈だ。今大会のシード順はチチパスが第5シードでズベレフが第6シード。過去の対戦ではチチパスが5勝2敗とリードしていたが、直近の対戦、アカプルコの決勝ではズベレフが6-4、7-6で勝利を収めていた。四大大会では意外にも初めての顔合わせだった。


準決勝でズベレフと対戦することについて聞かれたチチパスは、こんな答えを返している。


「良いリハビリと良い練習、そして良い食事と栄養、この3つだね」


相手にはひとことも触れず、いつものように準備するとだけ答えたのだ。深読みすれば、ズベレフへの意識過剰を戒める意思が働いたと受け取れる。


大きなカギとなる立ち上がりの攻防をチチパスが制し、そのまま2セットアップとした。しかし、ズべレフも持ちこたえ、2セットを取り返した。


最終セットの第1ゲームが勝負の行方を決めた。チチパスはダブルフォールトなどで0-40のピンチを迎えたが、5ポイント連取でブレークを免れた。まさに圧巻の5ポイント、チチパスの集中力を示すメーターがあったら、針は計測不能の域まで振り切れていたことだろう。チチパスがこの場面を振り返っている。


「僕は戦う人間だ。まだまだあきらめたくはなかった。僕はいくつか正しいことをして、それが自分に有利に働いた。僕はまだ生きていた。試合に戻ることができた。このゲームで僕は新鮮な空気を吸い込み、また元気が出てきた。それを自分の強みにするときだと感じたのだ」


一方の選手に追い風が吹く時間帯が長く、どちらかといえば大味な試合だったが、このセットは一気に白熱した。勢いに乗ったチチパスが第4ゲームでブレークに成功したが、競り合いは最後のゲームまで続いた。ライバル同士が競い合う、この緊迫感こそ我々が期待したものだった。


チチパスは四大大会の準決勝で3連敗していたが、「4度目の正直」で初の決勝進出を果たした。


もう一つの準決勝では、34歳になったジョコビッチが35歳のナダルを破り、決勝に進んだ。これが両者の58度目の対決で、通算成績はジョコビッチの30勝28敗となった。


レジェンドの域に達した二人のライバル関係にはまだ及ばないが、チチパスとズべレフも、これから何度もこんな好勝負を見せてくれるに違いない。集団のトップを並走し、共に男子テニスを引っ張るだろう。


(秋山英宏)


※写真は2021年「全仏オープン」でのチチパス(左)とズべレフ(右)
((Photo by Julian Finney/Getty Images)

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