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秋山英宏コラム

シュワルツマンとティームが見せた、テニスの最良の部分

「全仏オープン」でのティーム(左)とシュワルツマン(右)

試合を終えたディエゴ・シュワルツマン(アルゼンチン)とドミニク・ティーム(オーストリア)が、ネットを挟んでしばらく言葉を交わした。勝ったシュワルツマンだけでなく、「限界を超えていた」とエネルギーを使い果たしてしまった敗者の顔にも笑顔。ついさっきまで激しく戦っていた選手たちのこんな交歓は、なかなか見られるものではない。

二人は親友同士だ。2日前、準々決勝での対戦が決まった直後に両者はクールダウン・エリアで顔を合わせ、冗談を言い合った。「(試合が行われる)火曜日までは口をきかないことにする」。シュワルツマンがそう言うと、ティームは相手の脚を叩く仕草をして、二人で笑い合ったという。


試合のあとで、ティームはこう語った。


「とてもがっかりしているけれど、同時に彼のことを喜んでいる。相手が彼だったから、僕は心に大きな傷を負わずにすんでいるのかもしれない」


この試合では、両選手が主審にボールマーク(落下地点に残る痕跡)の確認を要求する場面がなかったと記憶している。線審の判定がアウトで、最も近くでボールを見ていた相手もアウトと言うならそれで終わり。選手は主審にボールマークの確認を要求する権利を持つが、両者がそれをしなかったのは相手への信頼、リスペクトだ。


選手Aの打ったボールがライン際に落ちる。線審の判定はアウト。ところが選手Bはボールの痕跡をシューズで消し、アウトの判定が誤りであったことを対戦相手と審判に示す。主審はアピールを認め、判定を覆してプレーのやり直しをコールする--クレーコートならではの光景であり、フェアプレーを誇ってきたテニスという競技ならではのシーンだ。しかし、こうした光景はやがて消えていくだろう。


四大大会では全仏だけがいまだにビデオ判定システムを採用していない。ボールマークを主審が確認し、誤った判定も修正できるという考え方だ。ところが、今大会では誤審の問題が改めてクローズアップされた。


デニス・シャポバロフ(カナダ)は2回戦で5時間の死闘を演じたが、大事な場面での疑惑の判定で集中を乱し、敗れた。この一件が話題になったのは、拡散された映像が誤審を示していたからだ。ティームもこれを誤審と見ており、そのうえでこう話した。


「僕はホークアイ(ビデオ判定)を100%支持する。僕の試合(3回戦)でも結果的に自分に有利になる誤審があった。審判のミスというより、ときにボールの跡が見えないことがあるんだ。セット間のコート整備でラインにブラシが掛けられると、ボールの跡がどこから始まっているか分からなくなってしまう。クレーコートでもホークアイが採用されれば、全員に公平だ。来年はどのクレーの大会でもビデオ判定が採用されるといいのだけど」


ノバク・ジョコビッチ(セルビア)も「このスポーツの伝統と文化には敬意を払っているけれど、技術が進歩したこの時代に、もはや線審をコートに配置する理由はない」と同じ意見だ。


今年の全米では、主要コートを除き線審を配置せず、すべてのラインジャッジをビデオ判定システムで行った。問題は起きず、逆にメインのコートで線審の判定がホークアイで覆る事態が続くと、試合進行がもたついているように見えた。クレーコートを含め、ビデオ判定の全面的な導入は時代の要請だ。当初からビデオ判定採用に異議を唱えてきたロジャー・フェデラー(スイス)の見方も知りたいところだが、残念ながら大会にその姿はない。


もちろん、誤審はないほうがいい。特に大事な場面での誤審は試合の行方を左右し、見ている我々にも、あとあとまで苦味が残る。ただ、微妙な判定がドラマを生んできた歴史もある。古いファンなら、女王シュテフィ・グラフ(ドイツ)に挑んだ若き日のマルチナ・ヒンギス(スイス)がラインの判定に異議を示した場面を覚えているだろう。ネットを通り越してボールの痕跡を確認に行くという愚行だった。これはコートマナーに反する例だが、シュワルツマンとティームのように、選手がフェアプレーのお手本を見せてくれる例も少なくない。


審判の判定より選手の主観が優先される、しかもその選手は、自分の利益にならないことを承知でこれを行う。こんなことが普通に行われている競技は珍しいのではないか。


試合をセルフジャッジで行う場合、試合慣れしていないジュニア選手に対し、コーチはインかアウトかどちらともとれるときは「相手の有利になるように」判定しなさいと指導する。その積み重ねで、我々は四大大会でもこうしてスポーツの最良の部分を目にすることができる。ビデオ判定の導入に異議を唱えるつもりはないが、選手のすがすがしい試合態度に胸を打たれる機会が減るのは少し寂しい。


秋山英宏


※写真は「全仏オープン」でのティーム(左)とシュワルツマン(右)
(Photo by Clive Brunskill/Getty Images)

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