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秋山英宏コラム

第1シード敗退の衝撃。しかしハレプは「良き敗者」として大会を去る

「全仏オープン」でのハレプ

全仏オープンは大会第2週に入った。若手の躍進や番狂わせ続出で、話題豊富な大会となっている。大会第8日は大波乱の1日となった。女子シングルス4回戦で第1シードシモナ・ハレプ(ルーマニア)が19歳のイガ・シフィオンテク(ポーランド)に完敗、男子シングルス4回戦では第6シードのアレクサンダー・ズベレフ(ドイツ)がこれも19歳のヤニク・シンネル(イタリア)に敗れた。

大会へのインパクトが大きかったのは、この日、ズベレフが発熱など体の異変を感じながら試合に臨んだことだった。ズベレフは試合後の記者会見で、数日前からの体調不良を明かした。


「チェッキナートとの試合(マルコ・チェッキナート=イタリアとの3回戦、9月2日)後、完全に体調を崩してしまった。声を聞いてもわかると思うけれど、まったく息ができない。熱もあった。体調はベストとは言えない。それが試合に少し影響したと思う」


新型コロナウイルスの感染抑止策として、体調不良の選手は大会に申告しなければならないが、大会側はズベレフが〈試合前に大会ドクターに相談していなかった〉としており、事実ならルール違反になる。その行動は軽率で、大会の盛り上がりに水を差した。


大会はこれまでに、のべ3000回のPCR検査を行ったとしており、この日もジュニア選手が二人、陽性反応が出て出場を取り消された。ズベレフの件で、大会がコロナ下での開催であるという重い現実を改めて突きつけられたように感じた。


初戦で敗退したダビド・ゴファン(ベルギー)の言葉がずっと頭の片隅に残っている。


「(今季は)常に心配をかかえているような気がする。毎回、大会が始まるまで、検査結果が陽性なのか陰性なのか、検査自体が誤りなのか、僕たちには分からない。また、大会ごとにルールがある。開催される都市によっても違うし、チームでの移動にしてもそうだ。日常生活をおくるのも大変だ。最も難しいのは、メンタル的に新鮮な状態で試合に臨むこと、エネルギーをセーブした上でコートで全てを出し尽くすことだ。その意味で今日は大変だった。僕は少し空っぽの状態で、エネルギーが残っていなかった」


選手たちは多かれ少なかれ、こんな状態で無駄なエネルギーを使いながら大会に臨み、なおかつ、与えられた環境で最善を尽くそうとしている。それが難しいのはよく理解できる。


クリスティーナ・ムラデノビッチ(フランス)らを破って四大大会初の4回戦に進出したドイツのベテラン、ラウラ・シグムンド(66位)は、この大会でビッグネームが苦戦し、成績が出ていなかった選手が躍進していることについて、こう話している。


「みんなが同じようにこのコロナの時期を抜け出したわけではないと思います。ある選手は再開直後からたくさんプレーすることを選び、ある選手は出る大会をしぼることを選んだ。マッチ練習をあまりせずに本番に臨んだことがものごとを大きく左右していると思います」


シグムンドはツアーの大きな日程変更により、北米のハードコート・シリーズからクレーコート・シリーズに短時間で移行しなければならなかったため、リズムをつかめない選手がいることも付け加えた。試合勘の問題だけでなく、ツアー中断中のモチベーションの維持、再開後のメンタルの持って行き方など、選手は多くの困難と戦っている。


さらに、大会側の感染抑止策に不安や不満を抱く選手も少なくない。西岡良仁は「ベストな対応はされていないのかなと思う」と手厳しい。また、西岡は外出が制限されていることについて「いろんな所に行ったり、いろんなものを食べたりするのが楽しみの一つで、リラックス法になっている。ずっと部屋にいなくてはならないとか、ちょっとしたことをケアしないといけないので、正直、ストレスは溜まる」と話している。


しかも今大会は低温と多雨、新たに採用された試合球など、これまでの全仏と全く異なる環境での試合となっている。選手たちがいかに多くのストレスをかかえながら過ごし、困難な状況で試合に臨んでいるか、想像するのは難しくない。


ハレプは、コートを去る際、赤土の上で一度立ち止まり、荷物の中からマスクを出して着け、再び歩き出した。一刻も早くコートを去りたい気持ちもあったはずだが、これがコロナ下の大会でのルーティンだ。西岡の言うように「ちょっとしたことをケア」し、それを毎日積み重ねていく選手のストレスは、いかばかりか。


ただ、ハレプは自身を含めた上位陣の早い敗退を、コロナ禍によるツアー環境の変化の影響と結びつける見方を否定した。


「このレベルの選手はみんな本当に良いプレーをしているし、素晴らしいプレーができる選手だからグランドスラムの4回戦に進出してくるのであって、結果は驚くことではありません。勝者が称賛されるべきです」


また、敗退の痛手をどうやって乗り越えるか、と聞かれたハレプは、こう答えた。


「今年はみんな大変な思いをしましたが、その中で私は素晴らしいシーズンを送りました。この一戦のために1年を台無しにするつもりはありません。もちろん簡単にショックは消えるものではありませんが、つらい出来事には慣れています。チョコレートを食べて、明日には元気になっていると思います」


女王が見せた矜持である。全仏では2018年に優勝、「1年に2回開催されればいいのに」というほど愛着がある大会だ。全米を欠場してクレーコートの四大大会に備え、前哨戦では2大会に優勝した。この2大会を含め、ここまで17連勝中だった。思いがけず早い敗退となったが、敗戦を受け入れる態度は、さすが第一人者だ。


グランドスラムの優勝こそなかったが、6大会で3度の優勝と、パンデミックに悩まされたシーズンをもっとも力強く戦った選手だ。


秋山英宏


※写真は「全仏オープン」でのハレプ
(Photo by TPN/Getty Images)

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