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秋山英宏コラム

全米OP女子で見る、トッププレーヤーがテニスより想うもの

写真は「全米オープン」でのアザレンカ

大坂なおみマルタ・コスチュク(ウクライナ)との試合中、テレビカメラがアーサー・アッシュ・スタジアムの観客席で過ごすビクトリア・アザレンカ(ベラルーシ)と3歳の息子、レオ君の姿を映し出した。かわいくて仕方ないというように頬ずりするアザレンカは、どう見てもアスリートというより母親の顔だった。

この大会ではアーサー・アッシュ・スタジアムのプレジデンシャルスイートで食事をとったり、くつろいだりする選手の素顔がテレビ観戦の楽しみとなっているが、この母子の姿はベストショットのひとつだろう。


翌5日に3回戦をプレーしたアザレンカは、イガ・シフィオンテク(ポーランド)に6-4,6-2で快勝した。アザレンカの四大大会16強は2017年ウインブルドン以来で、全米では8強入りした2015年以来5年ぶりとなる。


アザレンカのほかにも、この日、3回戦を戦った「ママ」が二人いた。セレナ・ウイリアムズ(アメリカ)とツベタナ・ピロンコバ(ブルガリア)だ。


全米を6度制しているセレナは、2017年の全米女王スローン・スティーブンス(アメリカ)との大一番に臨んだ。第1セットはスティーブンスが完璧にプレー、厳しい返球でコースをつかれたセレナは文字通り右往左往させられた。ところが、第2セットから様相ががらりと変わった。最初はベースライン付近でプレーしていたセレナは、少しポジションを下げ、80%の力で打つボールを増やした。これで余裕が出たのか、ショットの安定感が格段に増し、鮮やかな逆転勝利を収めた。


「私たちが戦うといつも信じられないような試合になる。スローンは私のフィジカル能力をすべて引き出してくれる。素晴らしい選手」とセレナが振り返る。相手をリスペクトし、謙虚に臨んだことが、第2セット以降の落ち着いたプレーにつながったのかもしれない。WOWOWの中継で解説者をつとめた鈴木貴男さんは、100%の形勢逆転に「これが経験。セレナの大きな武器」と賛辞を送った。


スタンドには、今週、3歳の誕生日を迎えたばかりの愛娘オリンピアちゃんの姿があった。「ママが戦う姿を見て入れいてくれたならいいけど、だれかと遊んでいたのかも」とセレナは笑った。


数年前には、子育てとテニスの両立に悩み、「自分は良い母親ではないのかもしれない」と漏らした。また、18年のウインブルドンで準優勝し、表彰式のスピーチで「すべてのお母さんたち! 私は頑張りましたよ」と語りかけ、同じような立場で仕事と生活に奮闘する女性たちにエールを送ったセレナである。


この大会のシングルスに出場した女子選手で子供がいるのは、すでに名前を挙げた3人のほかにキム・クライシュテルス(ベルギー)、ベラ・ズボナレワ(ロシア)など計9人にのぼる。妊娠、出産、育児のブランクを経て、こうして第一線で戦うにはどれだけの困難があったのだろう。ちなみに、クライシュテルスとズボナレワは2010年の全米で決勝を戦い、クライシュテルスが勝っている。


大会最終日に33歳の誕生日を迎えるピロンコバも、セレナに続いた。大物食いで知られる選手で、特にビーナス・ウイリアムズ(アメリカ)にとっては「天敵」だ。2010年のウインブルドンでベスト4、準々決勝でビーナスを破る番狂わせを演じた。翌年のウインブルドンでもビーナスを破り、8強入りした。


そのウインブルドンで2017年にプレーしたのを最後にツアーを離れ、翌18年に長男を出産、今大会で約3年ぶりに復帰した。ランキングを失っているため、プロテクトランキングでの出場だ。


2回戦では今年の全豪で準優勝した第10シード、ガルビネ・ムグルサ(スペイン)を破った。「大きな意味を持つ勝利です。ただ、トッププレーヤーに勝つのは初めてではないので、自分にはそれ(資質)があることは分かっていました。私は15年もツアーに出ていて、トップ選手との対戦の機会が何度もあったし、何度か彼女たちに勝っています」とピロンコバは、さも当然のように語るのだ。


3回戦では第18シードのドナ・ベキッチ(クロアチア)に快勝。3試合して、いまだ失セット0だ。


復帰のいきさつについては、こう話している。


「ママになって1年半から2年くらいは、ツアーに戻ることをまったく考えていませんでした。人生における新たな刺激を経験し、それが幸せでした。でも、再びテニスのことを考えるようになりました。エキサイティングで超クールなゲームだから、すごく楽しいんです」


以前は「試合に勝つかどうかが生死を分けるように思えた」というピロンコバだが、向き合い方が180度変わった。


「今の私に最も大事なのは、自分が母親であることです。子供と家族に集中しています。テニスは人生の全てではなく、楽しむためのゲームです」


もちろん、セレナやアザレンカがこのピロンコバの考え方を100%共有しているわけではないだろう。それぞれに、テニスへの考え方、生き方がある。しかし、子供や家族の存在が、彼女たちのテニスにおいて、あるいは人生において、大きなモチベーションになっていることに疑いの余地は1ミリもない。


(秋山英宏)


※写真は「全米オープン」でのアザレンカ
(Photo by Matthew Stockman/Getty Images)

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