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秋山英宏コラム

選手として、人として、深みを増した大坂が2年ぶりの頂点を目指す

「全米オープン」での大坂なおみ

人としての成長は成績とどれほど深くかかわるものなのか、と時々考える。「Mature/マチュア」は選手を褒める言葉だが、これは一人の人間としても十分に成長、円熟した選手という意味で使われるように思う。筆者も人間的な成長と結果を結びつけて記事を組み立てることがあるが、正直に言えば、人間性と成績は果たしてきれいに比例するものなのか、と少しだけ疑っている。喜怒哀楽を表す子供っぽい選手が勝つこともあれば、経験と知力のある選手が「考えすぎ」の罠にはまることもある。ダメ人間や不正直な人物でも結果を残すことがある。

ただ、10代でのバーンアウトを経て頂点に立ったアシュリー・バーティ(オーストラリア)や、古くは天才少年としてデビューしながらなかなか大成せず、それでも30歳前後でピークを迎えたアンドレ・アガシのような選手を見ると、内面的な成長はいかに大事かと思わされる。


大坂なおみの人間的な成長については、デビュー当初から何度も記事にした。芸がないと笑われそうだが、再びそこに言及しないわけにはいかない。


2年前の全米女王は、難しい大会を迎えることになった。パンデミックをなんとか抜け出そうという時期の開催で、選手は「バブル」と名付けられた一種の隔離状態で大会を迎えた。世界ランキング1位のバーティら上位選手の多くが出場を見送り、大坂には優勝の期待がかかる。しかも、大坂は「Black Lives Matter」の問題に積極的に関わり、大きな反響の中にいる。無心で開幕を迎えることはできなかったはずだ。


だが、1回戦では土居美咲との同国対決を制し、2回戦でも屈指のハードヒッター、カミラ・ジョルジ(イタリア)を圧倒した。


前哨戦のウエスタン&サザンオープンで痛めた左太もも裏は回復に向かっていたが、土居との3セットでまた悪化、厳重なテーピングで2回戦に臨んだ。それでも大坂のパワーとスピードは、相手のフラット系のスピードボールをものともしなかった。初戦でわずかに見られた上体の力に頼る悪癖も顔を出さず、全身のパワーを使ってラケットヘッドを走らせた。故障を気にする素振りも見せず、試合後のオンコートインタビューでコンディションを聞かれると「勝ってここにいるのだから、大丈夫ということでしょう」と軽くいなした。


1回戦同様、人種差別の関係が疑われる事件の犠牲者の名を入れたマスクを着けて入場した。「ELIJAH MCCLAIN」。米国での報道によると、この黒人男性は昨年、コンビニからの帰り道、スキーマスク姿を不審に思った市民の通報で駆けつけた警官に不当に拘束された。首を地面に押さえ付けられ、救急隊員に鎮静剤を注射されると、心臓が停止、数日後に命を落としたという。


大坂は勝利者インタビューでマスクのメッセージについて話した。


「テニスは世界中の人が見ている。(人種差別の)問題をみんなに知ってもらいたい」


初戦のインタビューでは、7枚のマスクを大会に持参したことを明かしている。


「(事件の犠牲者の数に比べ)7枚では足りないのが悲しい。決勝に進んで全部見てもらいたい」


ツアーが中断していたこの5月には、ツイッターに「内気な自分でいるのはおしまい」と書き込んだ。「Black Lives Matter」にかんしては当初から抗議の意思を示してきた。


「自分の意見を示す機会を手に入れた私は、それを何かのために使うべきだと思っている」--2回戦の勝利者インタビューでの言葉だ。もともと内気な性格で、トーナメントでは自室に閉じこもってゲームばかりしていた。いかに自分がシャイで人見知りか、自虐的に話すこともあった。試合で大事なのは「心の平穏」と話し、周囲からのプレッシャーや雑音をいかに遮断するかに苦心してきた。だが、今は違う。


実績あるアスリートとして、その責任を自覚し、社会に目を向ける。その上で試合に全力を尽くす。記者会見で、社会的な意識とプレーのバランスについて聞かれた大坂はこう話している。


「コートに立つときは試合のことしか考えません。コート外での様々なことは、もちろんこの大会でいい結果を残すための大きなモチベーションになっています。自分としては、よりよい選手になるためには何をすればいいのか、その試合に勝つには何をすればいいのかを考えるだけです」


大坂は、選手として、人として、着実に深みを増している。故障を抱えながら、落ち着いてジョルジの挑戦を退けた姿は一流選手の風格だった。


(秋山英宏)


※写真は「全米オープン」での大坂なおみ
(Photo by Matthew Stockman/Getty Images)

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