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秋山英宏コラム

「今は勝てない......」。ジョコビッチに完敗の西岡良仁が明かした胸の内

「全豪オープン」での西岡良仁

少し逡巡したのち、西岡良仁(日本/ミキハウス)の口から衝撃的な言葉が飛び出した。


「あまり言いたくないですけど--本音で言うと--たぶん、実力的に勝てないと思います」

ノバク・ジョコビッチ(セルビア)とは昨年11月の「デビスカップ」決勝ラウンド以来、2度目の対戦だった。前回は1-6、2-6の完敗、四大大会に舞台を移しての再戦でも3-6、2-6、2-6と歯が立たなかった。


事前に立てた作戦は「いかに低い弾道で打てるか」。左利きのフォアハンド対ジョコビッチのバックハンドのクロスラリーで、低いボールで組み立てることを考えた。


西岡の得意パターンは、フォアで高い弾道のトップスピンを打って、相手にバックハンドの高い打点で打たせ、相手のショットの自由を奪うというもの。詳細はこのコラムにも書いた。だが、前回の完敗で、この作戦では「勝ち目がない」と痛感したのだ。


ジョコビッチは巧みにふところを作るから、高く弾ませても窮屈な打ち方にならない。しかも猫のような敏捷さで前に入り、自分のタイミングで打ってくる。少しでも甘くなれば、ダウン・ザ・ラインにたたかれ、万事休す。つまり、ジョコビッチにはこの武器が通じない。


そこで「低い弾道」が浮上した。ロベルト・バウティスタ アグート(スペイン)やダニール・メドベージェフ(ロシア)ら、フラット系の低い弾道を持ち球にする選手がジョコビッチに善戦する姿がヒントになった。


しかし、ジョコビッチの対応は自在で、何の苦もなく打ち返された。それ以前に、自分のショットにばらつきがあった。


「普段打っているボールではないので精度が良くない」(西岡)と感じながらのプレーになった。違和感がぬぐい去れない。作戦に確信を持って臨んだはずだが、序盤のうちにそれが揺らいだ。


もう一つの誤算は、ジョコビッチのサーブが想定以上に素晴らしかったこと。第1、第2セットともジョコビッチのファーストサーブ時のポイント獲得率は100%、最終的に93%という数字をマークした。セカンドサーブ時のポイント獲得率も69%と、西岡のファーストサーブでのポイント獲得率67%を上回った。


「セカンドサーブでも時速180kmくらいで、コースに打たれると正直、何もできない。サーブからの3球目の質も高いので、(何とか)返したところで、という話になる。あそこまでサーブがいいのは想定外だった」と西岡。13回あった相手のサービスゲームで、西岡は計8ポイントしか奪えなかった。


西岡は冷静な選手だ。手持ちのカードを出し尽くし、勝てる可能性が小さくなっていくことを理解しただろう。冒頭に書いた「実力的に勝てない」という思いが徐々にふくらんでいったはずだ。


しかし、それで試合を終えるわけにはいかない。第2セットは展開を変え、ネットでフィニッシュする形も増やしたが、実を結ばない。「模索しながらやったが、チャンスを作るまで到達しなかった」と西岡。


次第に打つ手もなくなった。終盤の西岡のプレーが淡泊に見えたとしたら、万策尽きたという思いが表情に表れたのだろう。万に一つの可能性に懸け、どんな状況でも愚直に、不器用に戦う選手もいるが、西岡はそういうタイプではない。全力で考え、実践するが、竹槍で戦闘機に立ち向かおうとは思わない。


「今現在、僕の持っているものと彼のベースでは、ストローク戦で勝ちきれない。一球一球の質が違う。そこを上げていかないと。粘るとか攻めるとかそういう話以前に、ベースを強くしないと勝てない。(ラファエル・)ナダル選手には相性が合うし、20位とかの選手には普通に戦えるが、ジョコビッチ選手だけは別格。悔しいけど、気持ちでどうなるものでもない」


西岡の現状認識だ。現実を受け入れなければ、先が見えてこない。現在地を確認し、今は勝てなくても、いつかは、と策をめぐらす、西岡はそういうタイプだ。


試合終盤は格の違いを見せつけられた悔しさと雪辱への思いで頭が一杯だったのではないか。「前回(デ杯ファイナル)とは違った勉強になった」と西岡が振り返った。勝負をあきらめ、流れに身を任せていたら、決してこの言葉は出てこない。


「次勝てるかと言われたら、イエスとは言いにくい。もうちょっと時間がかかる。最後に勝てれば最高」


西岡のテニスを、そのガッツを見てきた人なら、これが根拠のない言葉ではないと分かるはずだ。


(秋山英宏)


※写真は「全豪オープン」での西岡良仁
(Photo by Morgan Hancock/Getty Images)

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