秋山英宏コラム

錦織のショットはなぜここまで大きく崩れたのか

「全米オープン」での錦織

序盤から終盤まで、錦織圭(日本/日清食品)のアンフォーストエラーが止まらなかった。第1セットから順に12本、17本、12本、19本で計60本(ダブルフォルトを含む)に達した。

積極的なプレーが結果的に攻め急ぎとなる場面が目立った。また、決定打のひとつかふたつ前、チャンス拡大を図るショットの精度も上がらなかった。


ミスの多い試合内容を錦織が悔やんだ。


「自分で攻めるのが理想だが、その前にミスが出た。彼のディフェンスもいつも以上によかっただろうし、その中で自分がついていけないところや作戦通りにプレーできないところがあった。自分の調子が上がっていかなかった」


北米を転戦した前哨戦では、初戦敗退が二つ続いた。今大会の1回戦は相手の途中棄権で勝利が転がり込んできた。2回戦は勝つには勝ったが、アップダウンの激しい内容だった。開幕までに十分な試合数をこなせなかったこととショットの不調についての因果関係について聞かれると「特にない」。錦織は感情を込めずに言葉を続けた。


「ま、今日の調子だと思います」


前哨戦の不調を持ち越したのではないとするなら、なぜ、ここまで調子を崩してしまったのか。


立ち上がりのまずさが、一つ目の要因だろう。冒頭のサービスゲームをブレークされ、相手のキープで0‐2。立ち上がりに硬さがあったのは仕方ないが、第3ゲームのブレークはさすがに余計だった。その後、ストロークを修正したようにも見えたが、第7ゲームで再びブレークを許し、さらにリズムが崩れた。


調子を崩した最大の理由が相手の好調なプレーにあったのは間違いない。デミノーは持ち前のフットワークにものを言わせ、錦織のショットを返し続けた。予想された展開ではあったが、錦織の誤算は、打っても打っても相手の返球が甘くならないことだった。


相手の返球が短くなれば、あるいはコースが甘くなればチャンスが広がる。どこかで必ず、確実に仕留められるボールが返ってくる。ストローク戦は通常、そうやって雌雄が決する。しかし、返球が甘くならなければ無理に攻めるしかない。それがことごとくミスにつながった。


「ディフェンスの質が高かった。(自分が攻めたときは)もうちょっと浅い球が来るのかなと思っていたが、振られても深い球を返してきた。そこは想像とは違った」と錦織が嘆いた。


ただ粘っていたのではない。巧妙なディフェンスだった。デミノーはフォアハンドフラット系のボールとトップスピンを使い分ける。また、同じフラットでも、攻撃的なショットと守備的なショットがある。これが、どちらもやっかいだった。


錦織が攻めても、デミノーの糸を引くようなフラットがベースライン後方から対角線に伸びた。フラットの低い弾道で長いボールを打つのは容易ではないが、このショットの精度が高かった。技術力と、正確にポジションに入るフットワークのたまものだ。前に入りたい錦織だが、球足の長いボールを打たれて二の矢、三の矢を継ぐことができず、互角のラリーに戻された。そのうちに、攻撃的なフラットのカウンターパンチが錦織のコートに突き刺さった。


また、デミノーはディフェンシブな状況でスピードのないボールをうまく使った。遅いボールで時間を作り、その間に体勢を立て直し、錦織の次のショットを見極める。もともと俊足だが、こうして万全の備えで待ち受けるのだから、もっと速く見える。早く攻めたい錦織は好ショットを連発してもいとも簡単に返され、焦りを募らせた。


錦織は「一番の負ける要因になったところ」として、こう語っている。


「攻めきれないところが多かった。彼のディフェンスがよかったので、自分のテニスが100点じゃない中、そこで差が出たというか、ディフェンスされてアンフォーストエラーして、みたいなパターンが多かった」


テニスの「調子」は、自分一人でコントロールできるものではない。素晴らしい守備によって、こうして大崩れさせられてしまうこともある。対人競技の怖さを思い知らされる錦織の完敗だった。


(秋山英宏)


※写真は「全米オープン」での錦織
(Photo by Steven Ryan/Getty Images)




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