秋山英宏コラム

全力で挑む最強の挑戦者ティームを王者ナダルが跳ね返した

写真は「全仏オープン」でのナダル(右)とティーム(左)

「これを最後のグランドスラムの決勝にしない自信はある。もう一度決勝に出て、次はもっといいプレーをする、このことが最大の目標だ」


 1年前、ラファエル・ナダル(スペイン)に決勝で完敗したドミニク・ティーム(オーストリア)は表彰式で巻き返しを誓った。その目標は確かに実現させた。決勝の舞台に戻り、相手も同じナダル。しかも、昨年とは比べものにならないプレーで食い下がった。序盤の両者の攻防は素晴らしかった。しかし結局、ティームは1年前と同じような言葉を繰り返すことになる。

 ティームの背負ったハンディは大きすぎた。4日連続の試合なのだ。1日前にノバク・ジョコビッチ(セルビア)と2日がかりの準決勝を戦い終えたばかり。準決勝は順延と雨による中断をはさみ、4時間13分を要した。試合途中での順延は、張りつめた状態が日をまたいで続くことになる。7日にロジャー・フェデラー(スイス)をストレートで破り、中1日の休養日があったナダルとはエネルギーの残量が大きく違っていた。


 にもかかわらず、ティームは第1セットから全力でナダルに襲いかかった。序盤から運動量が多く、すべてのボールに追いつきハードヒットしようとした。体力勝負の持久戦になるのを嫌った、と見ることもできる。いずれにしても、昨年の決勝で完膚なきまでに叩かれたティームには、この戦い方しかなかったのだ。


 しかし、この入り方をしながら第1セット失ったのは痛かった。セットカウント2−0にするしか勝てるシナリオはなかったのではないか。第2セットは奪ったが、さすがにこの強度でのプレーは続かない。第3セットから「プレーのレベルが落ちてしまった」とティーム。にわかにショットの精度が落ちた。ナダルにバックハンドをしつこく攻められると、こらえきれずにラケットコントロールを狂わせた。


 ナダルは第1セットの反発力が素晴らしかった。相手が立ち上がりから勝負をかけてくることを察知したのか。5セットで最後に勝とうというのではなく、全力疾走の相手を止めることに力を尽くし、それが奏功した。この強靱さこそナダルだ。


 これまで両者は12回対戦し、ティームは4勝していたが、グランドスラムに限ればナダルの4勝0敗。四大大会になると強さが1段階上がる。


 ティームはレッドクレーの絶対王者に挑む最強の刺客だった。これまでにクレーコートでナダルから4勝を挙げていた。これはジョコビッチの7勝に次ぐ2位の勝ち数。そのティームにしても、ナダルの壁は厚かった。


 ナダルの壁を「ビッグ3の壁」と言い換える趣向もある。ナダルが2005年に全仏初タイトルを獲得してから、ビッグ3以外の選手の優勝は2015年のスタン・ワウリンカ(スイス)があるのみ。それほどビッグ3の壁は高い。ビッグ3を二人倒すのは至難のわざだが、そうしなければ栄冠には届かない。ティーム自身、2016年には準決勝でジョコビッチに敗れ、2017年は準々決勝でジョコビッチを破ったものの、準決勝でナダルに敗れた。今回もジョコビッチを2日がかりで破ったが、次にナダルが待っていた。「クレーコートではいい試合をしている。勝てると信じることが大事」と話し、実際、第2セットまではどちらに転ぶか分からない試合をしたが、それまでだった。


 そのティームに、優勝インタビューでナダルが温かい言葉をかけた。


「ドミニクにおめでとうと言いたい。彼には申し訳なく思う。なぜなら、彼もまたここ(優勝インタビューの場に)に立つ資格があるからだ。将来、彼はここで優勝する機会があるだろう。彼は信じられない厳しさと、信じられない情熱でテニスに取り組んでいる」。


 準優勝スピーチのティームは、やや言葉少なだった。


「今はつらい気持ちだ。この2週間、すべてを出し尽くしたのだから。ラファ、おめでとう。負けたのは悲しいが、あなたは素晴らしいチャンピオン、レジェンドだ。来年また、必ず挑戦する」


(秋山英宏)


※写真は「全仏オープン」でのナダル(右)とティーム(左)
(Photo by Clive Brunskill/Getty Images)

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