秋山英宏コラム

苦悶のナダル、相手を称えるジョコビッチ。一方的でも、味わい深い決勝だった[全豪オープン]

両者の対戦は53度目。2位以下を大きく引き離す男子ツアー最多(オープン化=プロ解禁以降)の対戦カードだ。グランドスラムの決勝に限っても8度目となる。いかに長く二人が男子テニスの中心にいるかが分かる。


不思議なことに全豪では過去に一度しか対戦がなかった。その2012年の決勝は歴史に残る試合だった。ノバク・ジョコビッチ(セルビア)が5-7、6-4、6-2、6-7(5)、7-5でラファエル・ナダル(スペイン)を振り切った。所要時間5時間53分は大会最長、四大大会決勝での最長記録でもある。

だが、前回と同じ決勝の舞台で実現した再戦は、わずか2時間4分、一方的な展開でジョコビッチが制した。


今大会、ナダルは失セット0で勝ち上がった。6試合とも圧勝だった。準々決勝のフランシス・ティアフォー(アメリカ)、準決勝の第14シードステファノス・チチパス(ギリシャ)と勢いのある若手とも対戦しており、決して相手に恵まれたわけではない。おおむね2時間内外の所要時間とスコアの数字が好調さを示していた。そのナダルがジョコビッチには完敗だった。


ナダルは、全試合ストレート勝ちで四大大会の決勝に進んだときは過去6回とも優勝していた。ジョコビッチも全豪の決勝では6勝0敗の成績を残していたが、まさかこんなスコアで決着すると予想した人はいなかっただろう。


驚くようなスタッツが残っている。ジョコビッチのアンフォーストエラーは3セットでわずか9本、そのうち5本が第3セットに集中したが、第2セットはわずか1本という安定感だった。セカンドサーブ時のポイント獲得率84%もなかなか見られない数字だ。これだけのプレーをされてはナダルも仕方ない。ただ、当のナダルがそう思っていたかどうか。


ジョコビッチの3倍、28個のアンフォーストエラーを記録すれば、心穏やかではなかっただろう。劣勢の試合で、しかめっ面が何度も画面に大写しにされた。序盤の硬さの残る表情に、こんなはずではないという戸惑いがまじり、次第に怒りの色も濃くなった。ファイトしようという姿は最後まで見られたが、さすがに、このスコアでは厳しかったか。


第3セットの2-3からのジョコビッチのサービスゲームが最後のチャンスだった。この試合で初めてブレークポイントを迎えたが、しのがれた。


ナダルの表情に落胆の色が濃くなった。それでも、表彰式のスピーチでは「今日の僕はベストではなかったが、大きな意味のある2週間だった。戦い続けるよ。故障からの復帰戦はタフだったし、対戦相手もタフだった。今夜の相手のようにね」と最後に観客の笑いを誘った。


会見では「彼にあんなプレーをされたら、僕にはエクストラの何かが必要だった。でも今日は、それを示すことができなかった」と淡々と話した。


2時間で決着する試合より4時間5時間の試合の方が白熱するのは当然だろう。だが、こういう試合にも独特の面白さがある。錦織圭(日本/日清食品)は昨年から、劣勢時にも握りこぶしをつくる場面が増えた。自分を鼓舞し、盛り上げる手段だ。そうやって、負けている選手が必死にもがくのもテニスの一部。もがいた末に意気消沈していくナダルの姿も、めったに見られないだけに、ちょっとよかった。


ジョコビッチもナダル同様、昨年は故障に泣かされた。優勝スピーチではそのことに触れた。


「この12カ月の旅を完了させようと頑張ったんだ。ちょうど12カ月前に手術をした。今日こうしてみんなの前に立てて、タイトルも取れた。(手術後に出た四大大会)4つのうち3つ、というのは驚くべき結果で、言葉にできないくらいだ」


対戦相手のナダルには思いやりのある言葉を投げかけた。


「今日はタフマッチだっただろうね。君は負傷からカムバックした。これまで故障に悩まされることはあったが、君は僕や世界中の若い選手たちに、ファイティングスピリットと逆境から立ち直る力を示してくれている。ありがとう」


ジョコビッチの人柄、二人の関係の近さが想像できる。ワンサイドの試合ではあったが、味わいのある頂上対決だった。


(秋山英宏)


※写真は「全豪オープン」でのジョコビッチ(右)とナダル(左)
(Photo by Fred Lee/Getty Images)

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