秋山英宏コラム

大坂なおみの数年間の道のりが3セット、2時間27分に凝縮されていた[全豪オープン]

大坂なおみ(日本/日清食品)のここ数年の歩みを、もう一度たどり直すような3セットだった--試合に人生を重ねるようなロマンチストではないが、いくつかの符合がそう思わせるのだ。

ウィンブルドン2度優勝のペトラ・クビトバ(チェコ)に打ち負けず、第1セットを取ったのは彼女の潜在能力の証明だった。ところが、第2セットは3度のマッチポイントを握りながら挽回され、セットを落とした。セットの終盤には、まだ負けたわけではないのに、リストバンドで涙を拭う姿もあった。


それでも第3セットはしっかり立て直した。うまくいかない状況を受け入れ、自分ができる最善を尽くした。第1セットは日の出の勢いでグランドスラムにデビューした16年の姿、第2セットは自分自身への期待の重さに押しつぶされそうになった17年の苦闘を思い出させた。そして、過去の経験を生かし、大人の姿、すなわち今の大坂を見せたのが、勝負を決めた第3セットだった。


第2セットを落としたのは大坂のプレーが悪かったからではない。1セットダウンのクビトバがしっかり腕を振り、伸びのあるボールを打ちはじめたからだ。ただ、ラリーで押される場面が増えた大坂には動揺が見られた。それでも5‐3と引き離し、第9ゲームではトリプルマッチポイントまでこぎつけた。


ところが、勝負をあきらめないクビトバに挽回を許してしまう。彼女の代名詞のようなフォアハンドの逆クロスが、あり得ない角度に決まった。次は同じような弾道のショットに大坂がミスを強いられた。3本目は深いサーブをリターンミス。続く2ポイントもクビトバに最高のサーブを打ち込まれ、リターンが返らなかった。


展開を客観視すれば、相手を褒めるべきなのは自明だ。しかし、マッチポイントを逃し、極限状態の選手の心が揺れるのは仕方がない。結局、4ゲーム連取を許し、セットを失った。大坂はタオルで泣き顔を隠し、バスルームブレークのためにコートを去った。


この短いインターバルの間に、大坂は気持ちを立て直す。試合後、テレビのインタビューでこのときの心境を振り返った。


「(マッチポイントを逃したが)もう自分にはどうしようもない、と言い聞かせました。自分にコントロールできることに集中しよう、私は世界一のプレーヤーと試合をしている、簡単に終わるなんて思うべきじゃない、と」


立て直しは見事だった。序盤から悩まされていたクビトバのサーブのコースを読み、リターンのタイミングが合うようになった。力任せにボールを叩くのではなく、第1セットのように、よく腰を落とし、下半身のパワーをボールに伝えた。


第3ゲームで相手のサービスをブレーク、最後までリードを守る。第7ゲームでは0‐40のブレークチャンスを逃し、第2セットと同じような流れになったが、今度はしっかり締めた。


5度目のマッチポイントを時速183キロのサーブでものにすると、大坂はその場でひざを折り、顔を伏せた。しばらくその姿勢だったが、陣営に向けたのは晴れやかな笑顔だった。


記者会見では、第2セット後の精神面の立ち直りを別の言い方であらわした。


「これはたった2度目のグランドスラム決勝なのだから、権利者のように振る舞うべきではない、ここでの時間を楽しもう、と自分に言い聞かせました。去年は4回戦で敗れたのに今年は決勝の舞台に立っている、ここでプレーできること自体が幸せななのだから、後悔だけはないようにと」


月曜日に更新されるランキングで初めて1位の座につくことが確定している。昨年の全豪には世界ランキング72位で臨んだが、たった1年で頂点に上りつめた。


「私が行ったすべての練習、すべての試合を思えば、この1年は短かったとも長かったとも言えます。でも私は、自分のやってきた努力を、選手たちがこの地位を保つためにはらう大きな犠牲を思えば、早いとは思いません。どちらかといえば長かったと感じます」


21歳で頂点を極めた大坂を、急成長のひとことで片づけるべきではないのかもしれない。3セット、2時間27分のこの決勝のように、成長と停滞、逆戻りの末にたどり着いた、世界の頂点だった。


(秋山英宏)


※写真は「全豪オープン」優勝セレモニーでの大坂なおみ
(Photo by Fred Lee/Getty Images)

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