秋山英宏コラム

先行逃げ切りタイプの大坂が見せた、土壇場からの大逆転劇[全豪オープン]

「私はある意味、負けを受け入れてしまうところがありました。この点は改善しなければいけないとずっと思っていました」。大坂なおみ(日本/日清食品)の言葉が、この試合のすべてを語っている。

典型的な先行逃げ切りタイプだ。昨年は、第1セットを失ってからの逆転勝ちはわずか2試合にとどまった。ストレート負けが17試合(第1セット終了後の棄権2試合を含む)、第2セットを奪い返し、最終セットで敗れた試合が3。第1セットを落とすと「2勝20敗」という成績が残った。


同じ状況で錦織圭は8勝17敗(過去52週)と粘り強さを見せており、大坂の勝率の低さは際立つ。先行逃げ切り型というより、厳しく言えば、粘り腰の見られない選手だったと言うべきかもしれない。


一方で、第1セットを奪うと、この2年間、一度も負けていない。こちらも驚異的なデータだが、ランキング1位をねらおうという選手なのだから、逆転勝ち、粘り勝ちも、もう少し増やしたい。


昨年のWTAファイナルズはこの点で“半歩”前進が見られた。途中棄権の1敗を別にすれば、敗れた2試合はいずれも第1セットを落としても第2セットを奪い返し、最終セットで敗れたものだ。劣勢に陥っても、押し戻すことが徐々にできるようになってきた。


シェイ・スーウェイ(台湾)との3回戦は、第1セットを落とし、第2セットも先にブレークを許し、1‐4まで離された。2‐4で迎えた相手のサービスゲームは、たちまち40‐0。大坂はあとがなくなった。


ところが、つい今しがたまで迷いが見られた大坂のプレーがにわかに攻撃的になり、5ポイントを連取する。ブレークバックで3‐4とし、大坂が生き残った。


次のサービスゲームではブレークのピンチもあったが、アグレッシブなプレーを完遂、4‐4に追いつくと、流れは一気に大坂に傾いた。結局、1‐4から計7ゲームを連取した大坂が逆転勝ちをおさめた。


40‐0と追い込まれた場面を大坂が振り返る。


「40‐0であることさえ分かっていませんでした。ワンブレークされただけのこと、とにかくブレークを返し、相手にこれ以上ゲームを与えない、ということだけ考えていました」


素晴らしい集中力だった。うまくいかない試合展開にも、気持ちを切らさなかった。


「最初のうちは我慢のプレーがまったくできませんでした。彼女の動きがいいのには正直、驚かされました。彼女は、誇張なしに、まったくミスをしませんでした。だから私は待たなくてはいけないと感じ、そのうちにようやくチャンスがきました」


第1セットを落とすと、ラケットをコート面に投げつけ、主審に警告を与えられた。フラストレーションを溜め、感情を爆発させるのは、もちろん褒められたことではない。ただ、「怒り」の領域で踏みとどまったことが大きい。


以前の大坂は、イライラから怒り、さらに悲観、あきらめと、精神的に下降していくことが多かった。すなわち、「負けを受け入れてしまう」精神状態だ。これはアスリートにとって最も避けたい態度なのだ。ストレート負けが多かった要因の一つだろう。


だが、この試合では、怒りを爆発させてもそれ以上は崩れなかった。だから、第1セットを落としても、さらに第2セットで先にブレークされても、我慢すること、「待つ」ことができたのだ。大坂は「こういう勝ち方は自信になる」と話した。


「あと2ゲームで負けるところでしたが、このところ私はいつも、挽回しよう、ファイトしようと試みていたし、それができると思っていました。こういう勝利は自信を与えてくれます」


長い間の課題に、ほとんど初めて答えが出せたのだ。自分に足りないものがあることを自覚し、四大大会女王となった今も、それを真摯に追い求めるのは大坂の美点だ。この成功体験が、また彼女を成長させるだろう。


(秋山英宏)


※写真は「全豪オープン」での大坂
(Photo by Fred Lee/Getty Images)

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