秋山英宏コラム

錦織はなぜ、世界ランク176位にこれだけ苦しめられたのか[全豪オープン]

予選から出場した世界ランキング176位、カミル・マイクシャク(ポーランド)に錦織圭(日本/日清食品)が大苦戦した。

立ち上がりにブレークのチャンスを握りながら生かせず、流れを引き寄せられなかったのが痛かった。冒頭の相手のサービスゲームで1度、2‐2からのゲームで2度、ブレークポイントを握ったが、しのがれた。


錦織は「特に第1セットはチャンスがあった。先にワンブレーク、ツーブレークできていたら展開も変わっていたが、彼のサーブもよかった」と苦戦の理由を分析した。


複数の要因が噛み合って招いた苦戦だが、錦織の「自分のプレーが彼に合っていた」という分析が興味深い。


錦織の武器は、後方に下がらず早いタイミングで打ち出すグラウンドストロークだが、このショットのリズムが相手にぴったりはまってしまった。錦織のショットも決して悪くなかったが、速いテンポのラリーを得意とするマイクシャクのカウンターの餌食となる場面が目立った。


マイクシャクの球種はフラット系、すなわち弾道の低い直球だ。挑戦者はリスクを恐れず、スピードボールをコートに突き刺した。特に、意表をつくバックハンドのダウン・ザ・ラインが錦織には脅威となった。


「あのフラットボールはなかなか難しかった。持ち上げるのも大変だし、回り込んで打つのもかなり……」と錦織が絞り出した。低い弾道のフラットは、速いうえにバウンドが低い。したがって錦織はこれを上から叩けず、持ち上げるようにして安全に返すしかない。相手の球速が速いだけに、回り込んでフォアハンドで叩くだけの時間の余裕もなかった。


〈ケイには時間を与えるな〉--ライバルたちは、これを錦織攻略の第一歩と考える。時間の余裕を与えれば、錦織は速攻、遅攻を自在に操る。そこで、例えばラファエル・ナダル(スペイン)は重いトップスピンとコート面を滑るスライスで錦織のボディバランスを崩し、チャンスがあれば自分がコートの中に入って速攻を試みる。


また、フラットの速球を得意とする選手は、その速さと深さで錦織を封じようとする。ただ、フラットはミスのリスクもあり、多用する選手は多くない。予選を勝ち上がり、錦織には初挑戦、失うもののないマイクシャクだからこそ、これだけ思い切ったフラットが打てたと見ていい。


予選の3戦を勝ち抜いたマイクシャクは、コートの球足の速さやボールの感触にも慣れていた。その自信が怖いもの知らずの攻撃となった。これが第8シードから立ち上がりの2セットを連取する原動力だった。


マイクシャクにとって誤算だったのは、摂氏30度前後の暑さのなかで走り回り、フルスイングで打ちまくって体力が削られたことだ。第3セット立ち上がりのゲームで2度のダブルフォールトを起こし、このゲームを錦織がブレーク。第3ゲームにはケイレンに襲われ、マイクシャクは体の自由を奪われた。


結局、マイクシャクは第5セット途中で棄権。第8シードは事なきを得た。錦織は「もし(相手が)元気だったら危なかった」と胸をなで下ろした。


それにしても、男子テニスの層の厚さを思い知らされる、世界ランク176位の健闘だった。ランキングは低くても、危険な選手がゴロゴロいて、虎視眈々と上位を食おうとしている。その歯車が噛み合えば、この地位の選手でもトップ10プレーヤーをこれだけ苦しめるのだ。双方の勢い、歯車の噛み合い方次第では、ランキングに関係なく、こんな試合になる。その意味では、テニスの怖さを思い知らされた、と言い足してもいい。


錦織は2回戦でも危険な相手、世界ランク73位のビッグサーバー、イボ・カルロビッチ(クロアチア)と当たる


「(相手の)調子が良ければ負ける可能性もある」と錦織は正直だ。サービスブレークが難しいのは当然、自身のサービスキープは必須とあって、集中力の持続が求められる。第8シードに試練が続く。


(秋山英宏)


※写真は「全豪オープン」1回戦での錦織
(Photo by Cameron Spencer/Getty Images)

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