秋山英宏コラム

2019年 ジョコビッチとズベレフが男子テニスをもっと面白くする

写真は左からジョコビッチとズベレフ

 2019年の男子テニス界のキーマンは、ノバク・ジョコビッチアレクサンダー・ズベレフだろう。実力的に最も注目すべき選手たち、そして、今まさに始まろうとしている世代間競争を象徴する2人でもある。

 ジョコビッチにとって18年は波瀾万丈のシーズンだった。故障と不振で5月にはATPランキング22位に沈んだが、ウィンブルドンと全米を制し、王座返り咲きを果たした。ウィンブルドン以降の成績は35勝3敗と、まさに男子テニス界を制圧した。落ち込みが深かっただけに、シーズン後半の追い上げはドラマチックだった。

 これまで優勝のなかったシンシナティで初優勝、シングルスで史上初のゴールデンマスターズ(マスターズ1000シリーズ全制覇)を達成したことも特筆したい。

 ズベレフは四大大会こそベスト8止まりだったが、最終戦のNitto ATPファイナルズを制し、来季に期待をつなげた。同大会は準決勝でロジャー・フェデラーを破ると、決勝ではラウンドロビン(1次リーグ)で敗れたジョコビッチに雪辱した。

「このタイトルを取れた。まったく驚きだ。ロジャーとノバクを続けて倒すことができた。これは大きい。信じられないくらいうれしいし、誇りに思う」

 大舞台に弱いと揶揄されてきただけに、感慨深げだった。同じドイツの大先輩ボリス・ベッカーはこう称えている。

「キャリア最大のタイトルだ。ロジャーとノバクを準決勝、決勝で破ったんだ。みんなが期待していた彼のブレークスルーだ」

 31歳のジョコビッチが1位に返り咲き、37歳のフェデラーや32歳のラファエル・ナダルとともに30代選手がトップ3を占める現状で、世代交代の言葉を使ったら笑われるだろう。だが、ズベレフが19年に四大大会で優勝すれば、それに刺激を受けてステファノス・チチパスカレン・ハチャノフら若手が一気に勢力を拡大する可能性もある。

 ベテランの力が衰えて世代交代の時期が来るのではなく、ピークのベテラン勢を若手が追撃、徐々に追い落とす勢力図になれば面白い。18年はシーズン後半に失速したデニス・シャポバロフも必ずその若手グループに加わってくるだろう。

 ただ、ジョコビッチの牙城は堅固だ。18年の復活は鮮やかだったが、その歩みは少しも華麗なものではなかった。

 チョン・ヒョンに準々決勝で敗れた全豪のあと、完治の見られない右ひじの軽い手術を行ったが、復調には時間が掛かった。インディアンウェルズでは初戦でダニエル太郎に敗れた。全仏の準々決勝でマルコ・チェッキナートに敗れると、気持ちの整理がつかぬまま記者会見室に直行、想定外の行動に大会スタッフやメディアが右往左往するひと幕もあった。

 ウィンブルドンで3年ぶりに優勝すると、1年を超える長い低迷をこう振り返った。

「疑念とフラストレーション、失望の時間だった。この道を行くべきか、ほかの道なのか答えが出せない」

 それでも、なんとかトンネルを脱した安堵感からか、ジョコビッチは自身の哲学を披露した。「あの日々が、優勝までの道のりを特別なものにした。精神面での乱気流のような、疑いと失望とイライラと怒りの日々を乗り越えられたのは、ありがたいことだと思っている。テニス選手としてだけでなく、一人の人間として、ぼくは自分を深く知ることができてよかったと思っている。困難は自分を知るきっかけになる。自分を蘇らせ、進化させる」

 近年、ジョコビッチには哲学的な物言いが増えているが、それだけ内面と対話を繰り返し、自己省察の末、これまでとは違う境地に到達したのだろう。

 シーズンを振り返って、ジョコビッチはこう話している。

「テニスのレベルは自分のあるべき姿からはほど遠かった。だれだって負けるのは嫌だよ。でも、広い視野に立てば物事は違って見える。負けてがっかりという気持ちから抜け出すことができれば、自分が顧みるべきポジティブな物事が見えてくる」

 その精神性は、相撲の大横綱か柔道の高段者を連想させる。

 18年はプレースタイルでも新生面を打ち出した。鉄壁の守りに頼らず、ラリーの序盤からの仕掛け、すなわち攻めの早さが目立った。Next Genの攻撃的なテニスをこれで封じようという戦略か。

 哲人ジョコビッチから見ればまだまだ若輩者のズベレフも、テニス自体は若さに似合わぬ完成度で、あとは四大大会独特の重いムードや、期待の重圧をいかに跳ね返すかに尽きる。

 19年の男子テニスは両者を軸に、一段とレベルの高い競い合いが見られるだろう。

(秋山英宏)

※写真は左からジョコビッチ(Photo by Matthew Stockman/Getty Images)とズベレフ(Photo by Julian Finney/Getty Images)

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