秋山英宏コラム

偉業達成後も立ち止まらず、走り続けた大坂。誇りを胸に今季終了

スローン・スティーブンスとの第1戦が2時間24分、アンジェリック・ケルバーとの第2戦は2時間29分を要した。
スティーブンスもケルバーもロングラリーを得意とし、攻められても簡単にはあきらめない。
すべてのラリーの強度が高く、大坂なおみは密度の濃い4時間53分をコートで過ごした。  

長いシーズンを過ごし、体には疲労が溜まっている。本人いわく「自分の体が『なんで今頃までプレーしているの?』と言っている」状態だ。
それでも、トップクラスの選手たちと1日おきに戦わなくてはならないのが、WTAファイナルズの難しさだ。
選手には、あと数日でシーズンが終わる、ゴールのテープが視界に入っているという事実だけが支えなのだ。
初戦でスティーブンスに屈しても、大坂のモチベーションは揺らいでいなかった。
「全米オープンから家に帰っていない。もちろん帰りたいけど、私はまだここにいて、良い結果を残したいと思っている。ファンのみんなにも良い試合を見てもらいたいと思っている。それが一番大事。そこまで疲れてはいない。どこまでいけるか、やってみたい」
第2戦でもケルバーに敗れ2連敗となったが、第3戦の結果次第で準決勝進出の可能性が残っていた。

大坂は自分に言い聞かせるように、こう話した。
「自分にとって新しい経験。準決勝に行けたら、もちろんファイトする。大会でプレーすること自体、名誉なことだし、何があっても自分らしい試合をするだけです」

崩れ落ちそうになる体を、気力で支えていた。
試合前日は30分間の練習を予定していたが、ボールを使った練習はその半分ほどで切り上げ、コート上でストレッチやマッサージを受けた。当日の練習も感触を確かめるような軽いもので、ボールを打つ時間はこれも15分ほどだった。

大歓声に迎えられた大坂の左太ももには、テープが巻かれていた。2日前の試合でもこの部位を気にする素振りを見せていた。
本人が言うように「最高のコンディションとは言えない」のは明らかだった。
それでも序盤は互角に戦った。冒頭のサービスゲームは3度のデュースの末、ものにした。

相手の好ショットに食い下がる粘りは見られなかったが、勝ちたい、ポイントを取りたいという、どん欲さは見てとれた。
だが、ファーストサーブの確率は思うように上がらず、3-3からのサービスゲームを落とすと、勝利への意欲だけでは体を支えきれなくなった。

試合後、大坂が心境を明かした。 「2-2からどんどん悪くなった。動けなくなって、全部(強く)打っていこうとしたが、うまくいかなかった。無益な戦いで、自分を痛めつけるだけだと感じた」
3-5となったところでトレーナーを呼び、左太ももにさらに厳重にテープを巻いたが、すでにプレーは無理な状態だった。再度ブレークを許し、第1セットを失ったところで棄権を決めた。

「最初の試合で左ハムストリング(太もも裏側)を痛めた。プレーするたびに悪くなり、今日は練習も十分にできなかった。最後の大会だし、見に来てくれた方のためにもできるものならプレーを続けたかった」
コートで涙を見せた大坂だったが、記者会見ではみずからの状況を淡々と説明した。
サーシャ・バインコーチはツイッターで「期待したような結果にはならなかったが、彼女をこの上なく誇りに思う」とねぎらった。

コーチとチームは、全米優勝のあとをどう過ごすかに心を砕いていた。バインコーチが言う。
「多くの選手が偉業を達成したあとに成績が落ち込むのを見てきた。長く夢に見たことが実現し、いくらか満足してしまうんだ」
2017年全米オープンで四大大会初優勝を飾ったスローン・スティーブンスは、翌18年の全豪オープンまでシングルスで1勝もできなかった。
バインコーチはそうした停滞があってはらないと考え、大坂をプッシュした。
大会開幕前、バインコーチは大坂をこう称えた。
「僕は彼女にエネルギーと良い空気を与え、なおみはそれを活力に変えると信じていた。多くの選手が苦しんてきた事実があるが、彼女はとにかく素晴らしかった」

結局、北京の準決勝から4連敗でシーズンを終える形になったが、これを「落ち込み」ととらえる者は一人もいないはずだ。
長かったシーズンが終わり、ようやく落ち着いた時間が持てるだろう。
「何週間かオフが取れる。家に帰るのが本当に楽しみ。犬に会いたい。何カ月も会っていないので、私のことを覚えているといいけれど」
大坂は小さく笑った。ただ、休暇はすぐに終わるだろう。
「最初の1日は家で何もせず楽しく過ごすけど、2日目には退屈になり、またプレーしたくなってしまう」。
オフとはすなわち2019年への準備期間だ。フィットネスコーチのアブドル・シラーは「ナオミをスプリンターにする」と意気込んでいる。
未来の女王は、リフレッシュして、一段と強く速くたくましくなって、新しいシーズンを迎えるはずだ。

(秋山英宏)

※写真は「BNP パリバ WTAファイナルズ・シンガポール」での大坂なおみ
(Photo by Suhaimi Abdullah/Getty Images)

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