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秋山英宏コラム

大坂なおみ WTAファイナルズ 希望の見えた2連敗

だが、この苦闘は成長への苦闘である

コートにいるのは、全米オープン優勝、東レ・パンパシフィック準優勝の大坂なおみとは別人なのか。
それは言い過ぎだとしても、ついこの間、我々を驚かせたクレーバーさ、すなわち、我慢を貫き、攻めるべきときに正しく攻める大人のテニスが、このWTAファイナルズでは影をひそめている。
うまくいかない試合、もう少しで自分の展開にもっていけそうなところまではいくが、尻すぼみに終わる試合が2つ続いた。 
アンジェリック・ケルバーとのラウンドロビン(1次リーグ)第2戦も、初戦をなぞるようなゲーム展開になった。  
第1セットを落としたが、懸命に追い上げて勝負は最終セットにもつれた。
3-2からの第6ゲームで印象的な場面があった。ミスをして思わず腕の力が抜けたのか、その手からラケットがこぼれ落ちた。
すると大坂は、静かにコートに横たわる相棒に向かい、こう叫んだ。 「どうして?」
思えば、この2試合は「どうして?」の連続だろう。

初戦ではコートサーフェスへの適応がうまくいかず、「タイミングが取れない」と嘆いた。
サーブも、不調とまでは言えないが、全米や東レで見せた、一番ほしいときにフリーポイントを得る場面は減っている。
優勝した全米から試合数が急増、周囲の期待が増した分、重圧も大きくなり、おそらく今は心身とも疲労のピークだ。 
試合後、大坂は「間違いなくシーズンは終わりに近づいている。私の体は『なんで今頃までプレーしているの?』と言っている」と苦笑した。

第1戦と同じようにチャンスは何度もあったが、それを逃した。18回もブレークポイントを握りながら、ブレークに至ったのは5回だけ。
ブレークポイント成功率28%は、12回のチャンスで4回しかブレークできなかった第1戦の33%をさらに下回る。最終セット、3度のブレークポイントをすべて逃したのも第1戦とまったく同じ。

フラストレーションだけが溜まっていった。
第1戦の記者会見で話したように、初めて出場するツアー最終戦出場で、「勝ちたい気持ち」(大坂)が空回りしている。「どうして?」と叫んだときの心境を大坂が明かした。
「私は完全主義者。自分に多くを期待するし、周りの大きな期待も感じる。いろんなことが溜まってきて、それが爆発して、独り言が出てしまう。すごく勝ちたいと思っているから、感情的になるとコントロールが効かなくなる。そこは改善していきたい」

全米では、ミスをしても感情を抑え込み、平静を保った。無理に攻めず、チャンスが広がるまで我慢した。
その「ガマン」ができないのはなぜか。
「いろんなことが、コートも相手の選手も、全部違う。環境が違うからうまくタイミングが取れないのはガマンしなければいけないと分かっているけれど、うまくいかない。
試合もすごく長いし。良い選手になるにためにガマンしようと努めているけれど。もっと堅実にやらなければいけないのも分かっているし......」

2017年の全米女王スローン・スティーブンスに続き、第2戦の相手がグランドスラム3勝、世界ランク2位のケルバーと、比較的、対戦相手に恵まれた全米よりはるかにタフな対戦が続く。
期待の大きさからくる重圧も、チャレンジャーの立場だった全米とは大きく違う。
だからこそ、この大会は大坂が「良い選手」になるための試金石なのだ。
この2試合の苦闘は、すなわち成長への苦闘と言える。

ハードルの高さを思えば、よくやっているとも言える。
大坂は典型的な先行逃げ切り型だ。今季の40勝のうち、第1セットを落としてからの逆転勝ちはたった2試合だ。フルセットでの勝ちは、わずか4試合。
要は第1セットがすべて、リードを奪えば勝ち、そうでなければ勝ち目は薄い。筆者が大坂を発展途上の選手と見る理由の一つがそこにある。
もっとも、その段階で四大大会を制してしまうのが大坂の非凡さなのだが。  

今大会、ここまでの2敗は、ともに第1セットを落としながら第2セットを取り返し、最終セットで敗れたものだ。
大会前の時点で、今季の17敗のうち、同じゲーム展開で敗れたのはわずか1試合だった。  

つまり、今までなら降参していた展開でも、今回は簡単に勝負をあきらめていないことが分かる。ケルバーは「第3セットはアップ・ダウンが続き、気持ちが揺れ動いた。1ポイントか2ポイントの差だった。最後の数ポイントは、しっかり動くこと、頑張ることだけを心がけた」と振り返った。

勝者もそこまで追い込まれていた。元世界ランキング1位の意地と、カウンターパンチャーのスキルを全開にしたケルバーがさすがだった。成績上位の8人が頂点を決める戦いで頑張るのは当然だが、粘れない大坂が、今大会では激しく抵抗していることは指摘しておきたい。

泥臭い勝ち方も、(こういう言い方があるかどうか分からないが)泥臭い負け方も少なかった大坂が、「良い選手」になるために、必死にもがいている。  
大坂には、準決勝進出の可能性が残されている。そのことも含めて、あえてこう書きたい。

希望の見える2連敗だったと。

(秋山英宏)

※写真はWTAファイナルズで奮闘する大坂(Photo by Suhaimi Abdullah/Getty Images)

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