秋山英宏コラム

王者国枝が敗退。苦悩の中から新たなモチベーションも[ウィンブルドン]

2017年「ウィンブルドン」での国枝

車いすテニス男子シングルスで第1シード国枝慎吾が1回戦で敗退した。第2セットを奪い、第3セットは2-5から5-5に追い上げる粘りを見せたが、最後は5-7でグスタボ・フェルナンデス(アルゼンチン)に振り切られた。王者を破った世界ランク3位の24歳は、ラケットを放り投げて勝利の雄叫びを上げた。

パワーで押しまくられての惜敗だった。国枝は31本のウィナーを決めたが、フェルナンデスのウィナーは2倍超の64本。ネットでの得点も4対14と大差をつけられた。

王者国枝も、この大会ではまだ優勝がない。今季の目標を「ウィンブルドン」初優勝と定め、岩見亮コーチと取り組んできたが、「なかなか難しい」というのが実感だ。

難しいと感じるのは、ひとつには芝に車輪を取られ、車いすを漕ぐのに大きなパワーが求められるからだ。大会前に別会場でエキシビションに参戦したが、「ひと漕ぎひと漕ぎがほかの選手より重い」と実感しながらのプレーだった。

別の意味でもパワーが求められる。ラリーの中で「悪い体勢から腕一本で持っていかなくてはいけない場面も多くある」。ハードコートのように精密に車いすを操作するのは難しい。若い男子選手は腕力にものを言わせてこれを補うが、国枝は「腕一本で持っていくのは僕のスタイルではない」と言う。

今日の相手のフェルナンデスなど、車いすテニスにもパワー化の波が押し寄せるが、国枝は技術、戦術、メンタルの総合力で勝負してきた。だが、芝のテニスではサーブとリターンの比重が大きく、パワーにものを言わせる選手に有利だ。ラリーでもパワーが求められ、体格で劣る国枝には不利な条件がそろう。バウンドが低く、スピードも稼げるスライスを使うのも手だが、順回転のトップスピン主体でプレーを組み立てる国枝には大きな技術、戦術の変更になる。

「シングルスは2度目の出場で経験が浅く、ダブルスでは数回優勝しているが、ここでいいプレーをした覚えがない。何かを変えなくてはいけないが、その何かをコーチと話し合って見つけなくてはいけない」と改めて解決の糸口を探るところから始めるつもりだ。

ここで優勝すれば、生涯グランドスラム(四大大会全制覇)達成となるが、攻略のメドが立たない以上、なかなか自信も出てこない。「ウィンブルドン」で車いすテニスのシングルスを開催するのは今大会が3年目だが、「今頃、(シングルスを)作るなよ、20年前からやっておいてよ、というところはある」と苦笑いした。しかし、恨み節のあとにこう続けるところが、さすが国枝と思わせた。

「モチベーション的には、取らずにはやめられないところでもある」

まだ何の答えも出ないが、攻略するまでやめられないという。王者国枝のキャリアは進化と改良の歴史だった。ヘビートップスピン主体の守備的なテニスから、攻撃的にシフトした。右ひじ痛の持病を抱えたこともあって、フォアハンドバックハンドも改良に改良を重ねた。34歳にして芝の攻略という課題を突きつけられたが、「モチベーションをかき立てられる」と言う。

「もし、ここで今年優勝したら、次に何を目指すのかということにもなる。その意味ではいいですかね」

パラリンピックでも、四大大会でも、ランキングでも頂点を極めた。その国枝にとって、新たな課題を見つけ、それをモチベーションとするのは自然なことなのだろう。

「やっぱり、このウィンブルドンで勝ちたい。難しいのは分かっているが」

王者の新たな挑戦が始まった。

(秋山英宏)

※写真は2017年「ウィンブルドン」での国枝
(Photo by Moto Yoshimura/Getty Images)

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