マイページ

秋山英宏コラム

錦織が8強進出。全精力を投入した二つのタイブレーク[ウィンブルドン]

自身初のベスト8に進出した錦織

エルネスツ・グルビス(ラトビア)は第2セットを取れなかったこと、なかでも錦織圭(日本/日清食品)のサービスゲームをブレークできなかったことを悔やんだ。

「第2セットを取るべきだった。リターンゲームでもう少しアグレッシブにいくべきだった。僕よりもケイのほうが数段、自分から攻めていた。タイブレークは1、2ポイントで流れが行ったり来たりする。だから先にブレークすべきだった。ブレークポイントも握ったし、0-30も何度かあったが、そこでアグレッシブにできなかった」

一方、錦織はこのセットのタイブレークを取れたことが大きかった、と振り返った。「我慢するしかないなと、第3セットまでは耐えながらやっていた。(第2セットの)タイブレークから、ちょっと攻めようかなと思って--守っていても、あれだけリターンで苦労していたので、前に入って打ってみたり、そのリターンのおかげで攻める自信がついてきた。タイブレークがきっかけで、自分のしたいテニスが取り戻せた」

勝者と敗者の見方が微妙に異なるのが面白い。どちらも真実なのだ。グルビスはブレークでもう一段階、流れを引き寄せたかったし、錦織も、ブレークのピンチをなんとか耐え、タイブレークに持ち込んだことが逆転勝ちへのプロセスとなった。そして、このタイブレークがやはり最大の分岐点だった。

錦織の集中力が素晴らしかった。メディカルタイムアウトで右上腕部のマッサージを受けるなど、フィジカルとショットに違和感があるのは明らかだった。グルビスが言うように第5ゲームと第7ゲームには0-30とブレークのピンチもあった。青息吐息でなんとかタイブレークに持ち込んだ。しかしここで、いつもの錦織が戻ってきた。

攻めたと言っても、破壊的なショットで相手をたたきつぶすような場面はなかった。ニック・キリオス(オーストラリア)との3回戦のような華麗な攻めではなく、堅実なグラウンドストロークと懸命のリターンで展開を作り、じわじわ攻めた。

派手さはなくても、悪魔のように巧妙で、職人のように丁寧なプレーもまた、錦織の持ち味なのだ。その全精力を投入したタイブレークだった。

1セットオールに持ち込んで、錦織がひと息ついた。本来なら一気に主導権を握るべきだったが、グルビスがそうさせない。錦織自身、立ち上がりからの硬さ、ショットの感覚の悪さはなかなか去らなかったのだろう。このセットも互いにサービスブレークがなく、またもタイブレークに持ち込まれた。

この試合を凝縮したようなタイブレークだった。つまり、技術戦術ではなく、メンタルの闘いだ。錦織が鮮やかなフォアの逆クロスで5-2と先行する。この時、逆をつかれたグルビスが転倒し、左ひざを負傷。左ひざが内側に入り、大きなダメージを受けたグルビスはコートを離れて治療を受けた。錦織はその間、コートで待たされた。シャドーボクシングのように体を動かして備えたが、やはり中断が流れを変えた。

治療から戻ったグルビスのサービスエースでゲーム再開。ダブルフォルトもあって、錦織は5-5に追いつかれた。6-6以降は9ポイント連続でミニブレークと、プロではめったに見られない展開となった。それでも最後は錦織が12-10でものにした。中断に流れを断たれたタイブレークを錦織は「あれは苦しかった」と振り返った。

「自分でコントロールできないことなので、どうしようもないが、ここで(メディカルタイムアウトを)とるか、と一瞬思った。ダブルフォルトしたり、エースを取られたり、完全に嫌なパターンだったが、落ち着いてプレーすることだけを考えた。どうしても取りたいセットだったので、最後まであきらめず、落ち着いてプレーしていた」

両者、硬くなって、ラケットが振れなくなっていた。神経戦の様相になったが、錦織がわずかにまさった。グルビスが言うように「タイブレークはタイブレーク」、つまり膠着状態を強制的に終わらせるためのルールだが、勝負強さで錦織が上だった。

耐えて、耐えて、最後に勝ちを拾った。元コーチのブラッド・ギルバートのモットーである「醜く勝つ」を実践したような辛勝だ。だが、この泥臭い勝利の意味は大きい。

「優勝するためにはここからタフな戦いが続くので安心もしていられない」と錦織。そう、7勝するには、こんな勝利も必要だ。

(秋山英宏)

※写真は自身初のベスト8に進出した錦織
(Photo by Matthew Stockman/Getty Images)

秋山英宏コラムの関連記事

PAGE TOP
menu