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コラム

大坂がセレナやブレイディをはるかに凌駕する、ビッグデータの"数字"

「全豪オープン」でのシェイ(左)と大坂なおみ(右)

今大会の大坂なおみは、心技体の充実が目立つ。なかでもメンタル面の成長については、自身のコメントを含め、様々に語られている。また、「体」すなわちフィジカル面についても、動きの速さや、ぎりぎりで追いついたときのショットの質の高さが指摘されている。その背景にあるのはフットワークや体幹部などのトレーニングの成果、とする見方も紹介されている。


では、具体的にどこが優れているのか、大坂のフィジカルをビッグデータから探ってみたい。

オーストラリアテニス協会はメルボルン大学と提携して専門家チーム「GIG」をつくり、ビッグデータの解析を行っている。解析はホークアイ(ビデオ判定システム)に集積されたデータをもとに行われているという。分析結果の一部はメディア専用サイトで公開、また、ツイッター(@TennisAusGIG)でも一部を紹介している。


これを見ると、例えば大坂のファーストサーブの平均速度は2017年の大会で約168㎞/hだったものが、2020年大会では173㎞/h程度に上がっているのがわかる。さらに注目したいのは「3球目」、つまりラリーの優劣を大きく支配するグラウンドストロークの最初のショットの速度が、17年の107.5㎞/hから20年には117.5㎞/hに伸びていることだ。ビッグサーブ一発に頼ることが多かった4年前に比べ、サーブ+3球目攻撃で、より確実にポイントに結びつけるスタイルに進化してきたことが読み取れる。


専門家グループはフィジカルについての分析も行っている。今大会で女子シングルスのベスト4に残った選手たちの「動き」に関するデータを比較した一覧が興味深い。


分析された項目は「Distance」「Hitting Load」「Total High Intensity Changes」「Total Sprints」「Total Work」の5つ。より正確な解析が可能な直近4大会のデータをもとに、各選手がマークした最高値を比べている。


例えば「High Intensity Changes」は、高い強度で方向転換を行った回数をカウントしたもの。相手のショットに対応するために、急ブレーキをかけ、止まるやいなや爆発的なスピードで逆方向に走り出すことができるかどうか。それが回数として計量されている。すなわち、敏捷性をあらわす指標である。


専門家チームは女子選手の平均値は1セットあたり「13回」としているが、カロリーナ・ムチョバ(チェコ)は「41」という数字を残している。1試合では「71」という記録がある。彼女がいかに敏捷性に優れた選手であるかが読み取れる。また、だから、動かされても質の高いカウンターパンチが打てるのかと納得させられる。


この項目での大坂の最高値は、1セットで「26」。大坂自身が相手を振り回すことが多いため、ムチョバの数字には及ばないが、立派な数字だ。


大坂が飛び抜けた数字を記録しているのが「スプリント」だ。5.5m、すなわちコートの横幅の半分の距離を高速で動いた回数をカウントしたもの。瞬発的なスピードと、その爆発力を持続させる筋持久力を示す数字と言える。専門家チームはアシュリー・バーティ(オーストラリア)は1セットの平均値が「13」、ノバク・ジョコビッチ(セルビア)は「19」であると紹介しているが、大坂のベストは「23」、また、1試合では「61」という驚異的な数字が残っている。これはムチョバの「35」やジェニファー・ブレイディ(アメリカ)の「34」、セリーナの「31」を大きく上回る。大坂が爆発的なスピードの持ち主であり、1試合を通じてそれを維持していることが証明された形だ。


1試合における「Total Work」でも大坂が4人のトップだ。これはポイント中に選手が消費するエネルギー量をあらわしたもので、返球のために移動した距離や速度、加速度、移動方向の変化などの要素を総合して計算される。つまり、コートでの「動き」の総合力である。単位は「kj」、335kjがバナナ11本分のエネルギー量だという。大坂がマークしたのは2113kj(/1試合)で、運動量の多いムチョバの2066をも上回る。


こうしたデータは、大坂がツアー屈指の「動ける」選手であることを示している。


このことを頭に入れて、セレナと準決勝を振り返ってみよう。この試合で目立った点の一つが、ロングラリーでの大坂の強さだった。ダブルフォールト8本とサーブに苦しんだこともあり、「0~4本」のラリーでの得:失点は41:37とほぼ互角だったが、「5~8本」のラリーでは17:10、「9本以上」では4:1といずれも大坂が大きく上回った。


ロングラリーを制するのは、基本的に動きのいい選手と考えられる。スピードに加え、運動量が多くなってもバランスを保ち、スピードを持続的に発揮できることが求められるからだ。今大会では動きの良さが驚きとともに語られたセレナだったが、この試合では、スムーズで力強い動きを見せた大坂に及ばなかった。そこが勝敗を分ける一因になったと思われる。


ビッグデータには示されていないが、大坂はヒッティングポイントに入る直前の動き、つまりボールへの「入り方」もいい。素晴らしいのは、遠くのボールへの最後の一歩、その歩幅の大きさだ。打球のコースを隠しながら入る巧妙さもある。


今の大坂の「動き」は、かなり高いレベルにあると言っていいのではないか。しかも、まだ伸びしろもありそうだ。ここ数年の大坂はフットワークのスキルが上がり、敏捷性が向上している。上位選手との対戦では左右に振られることも多いので、「高い強度での方向転換」の数字ももっと伸びると思われる。


決勝で当たるブレイディはフォアハンドが武器だが、動きの良い選手でもある。上記の「高い強度での方向転換」や「スプリント」では、1セット単位では大坂をしのぐ数字も残している。決勝では、両者の「走り合い」も一つの焦点になりそうだ。


戦術、メンタルのかけひきも楽しいが、「動き」という視点から試合を見るのも面白い。試合観戦の参考にしていただけると幸いだ。


(秋山英宏)


※写真は「全豪オープン」での大坂なおみ
(Photo by Cameron Spencer/Getty Images)

大坂なおみ出場!全豪オープンテニスWOWOW生中継!

2019年に全豪を制覇、2020年全米では2度目の優勝を果たし、世界に影響力を持つ大坂なおみ。アスリートとしてだけではなく、"人種差別問題"にも問題提議を続けた勇気ある行動を示した彼女の今シーズンの活躍から目が離せない。

【放送予定】 2/8(月)~2/21(日)連日生中継
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