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コラム

天才ショットメーカー、スーウェイはすべてにおいて型破り

「全豪オープン」でのシェイ(左)と大坂なおみ(右)

大坂なおみに行く手を阻まれ、シェイ・スーウェイ(台湾)の快進撃が終わった。


比較的番狂わせの少ない今大会、ノーシードのスーウェイは小さな旋風を起こしていた(ジュニア時代を日本で過ごした彼女を、日本のテニス関係者は皆、下の名前で呼んできた。この稿でもそれにならう)。

2回戦で第8シード、19年の全米女王ビアンカ・アンドレスク(カナダ)を破る番狂わせを演じると、3回戦ではサラ・エラーニ(イタリア)に競り勝ち、4回戦ではマルケタ・ボンドルソバ(チェコ)に快勝した。


3人の共通点にピンときた方はかなりのテニス通だ。エラーニは12年全仏準優勝、ボンドルソバは19年全仏準優勝と、全員、四大大会の決勝を経験している。ちなみに1回戦で戦ったツベタ・ピロンコバ(ブルガリア)は10年のウインブルドン4強の選手だ。


独特のスタイルを持ち、実績のある選手たちを次々倒し、独特の言語感覚でインタビュールームを劇場にしてしまう。スーウェイの注目度は、勝つたびに急上昇していった。


準々決勝で対戦することになった大坂のコメントが傑作だった。


「ビデオゲームだったら、彼女のキャラを選んでプレーしたいくらい。なぜなら、実際に対戦すると、彼女がどんな選択をしてくるか見抜けないから。対戦するのは楽しくないけど、見ているのは本当に楽しいですよね」


この文脈で名前が出てくる選手はロジャー・フェデラー(スイス)と相場が決まっている。だが、自分にないものを持つ選手への一種の憧れなのか、大坂は自由自在にショットを操るスーウェイのキャラでプレーしてみたいというのだ。


そんなショットメークの天才、異能のプレーヤーである。「え? ここで?」というタイミングで、「え? これ?」というような意表をつくショットが飛んでくる。脚が速そうには見えないのに、必ずボールの落下地点にいる。力を入れて打っていないのに、糸を引くようなボールが厳しいコースに収まっている。そもそも、やる気があるように見えないことすらある。つかみどころがないのだ。


2回戦で当たったアンドレスクの、試合中の泣き笑いのような表情も、スーウェイの“沼”の深さを物語っていた。


スーウェイを指導するポール・マクナミーコーチが面白いエピソードを紹介していた。スーウェイは以前、ストリングスが切れたことに気づかずにプレーを続けたことがあったという。ストリングスを切るという経験自体が異常に少なく、「糸が切れた状態でプレーすることがどんなものか知らなかった」のだそうだ。もっと驚くのは、スーウェイはそのラケットを3年間一度もストリングを張り替えずに使っていたのだという。


選手はストリングスの張りの強さに敏感で、ボールチェンジごとにラケットを替える選手が大半なのに、まさに「弘法筆を選ばず」だ。マクナミーさんの誇張が入っているのだとしても、天才肌のスーウェイなら本当かも、と思わされる。


マクナミーさんによれば、ラケット契約はなく、自費で購入しているのだとか。また、多くの選手は契約している企業やブランドの名入りパッチをウェアに貼っているが、スーウェイのウェアにはめったに見られない。ウェアの提供もないから、身につけるブランドはいつもバラバラ。いつだったか、会場で購入したと思われる大会公式ブランドで登場したこともあった。マクナミーさんはそんな姿を「タイムズスクエア」と形容した。購入したウェアに一つ一つ違ったロゴマークが入っているのを、様々な企業ロゴがひしめくニューヨークの繁華街の景観になぞらえたのだ。


ストリングスを頻繁に張り替えないのは、あるいは経済的な理由もあるのだろうか。ダブルスでは世界ランキング1位だが、スポンサーからの多額の収入がなければ、複数のスタッフを引き連れての競技活動は楽ではないかもしれない。


さて、そのスーウェイが迎えたテニス人生のハイライトである。35歳にしてグランドスラムの準々決勝に初進出、これはオープン化以降の最年長記録だという。準々決勝の相手は同じアジアに国籍を持つ大坂に決まった。


大坂は「彼女と対戦すると、自分でコントロールできることが多くないと感じるので、気持ちがかき乱されてしまう。マインドセットに迷いが生じるのです」と警戒した。


第3シードの大坂も、もちろん四大大会の決勝を経験している選手だが、4人目の“犠牲者”にはならなかった。2-6、2-6。スーウェイにとっては、ほとんど何もさせてもらえない完敗だった。それでも、最後の抵抗というか、大坂のマッチポイントで真骨頂を見せた。早いテンポの連続攻撃、コーチのいうところの“ミリ単位”のプレースメントで大坂を振り回した。


「マッチポイントでの2本のショットだけは、最高のプレーができました。だから自分を誇りに思います。またこの次です」


.スーウェイは巻き返しを誓った。彼女が胸を張って振り返ったのは、この2ポイントだけではない。


「テニス選手にとって、時差ぼけ、活動費用やスポンサーの問題、チームのこと、すべての重圧、これらをマネージメントしていくのは容易ではありません。少なくとも私はそれをやり遂げたし、これからもうまく回していくために力を尽くすつもりです。ポジティブであり続ければ、きっと良いことが起こるでしょう」


いくつもの問題を解決し、自分で競技環境を整えたことが誇らしいというのだ。プロフェッショナルとして、一つの仕事をやり終えた。彼女は、完敗を喫した選手とは思えないような、満ち足りた表情で会見場の椅子に座っていた。


(秋山英宏)


※写真は「全豪オープン」でのシェイ
(Photo by Cameron Spencer/Getty Images)

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2019年に全豪を制覇、2020年全米では2度目の優勝を果たし、世界に影響力を持つ大坂なおみ。アスリートとしてだけではなく、"人種差別問題"にも問題提議を続けた勇気ある行動を示した彼女の今シーズンの活躍から目が離せない。

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