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コロナ禍での全米OPと全仏OP、どこが違った?

写真は「全米・全仏オープン」での男子・女子シングルス優勝者たち

2020年のグランドスラムは、新型コロナウイルスによるパンデミックの影響を受けて「ウィンブルドン」は中止になったが、「全米オープン」(以下、全米)は無観客で予定通り開催、「全仏オープン」(以下、全仏)は例年の初夏から延期して全米の2週間後に行われた。グランドスラムとしては異例の、間を置かずしての開催は、選手にも少なからず負担をかけただけでなく、新型コロナ対策や競技進行に少なからず大会色が出て、選手を惑わせたり苦情が出たりもした。その違いを米ESPNが報告している。

特に大きな差が出たのが、感染防止のため外部との出入りを禁じた「バブル」と呼ばれる空間の取り扱いの差で、全米ではあらゆる手段を講じて選手と外部が接触する機会をなくした。それが功を奏して大会開催中に選手や関係者に感染者が出ることなく、無事大会を終えている。


一方、そのことが閉鎖的な印象を与えたことも確かであり、全仏ではその事実を踏まえて一部規則を緩くし、人数を制限した上での観客動員も認めるなど、全米よりは多少開かれたオープンを目指した。その是非はともかく、一部混乱を招いたことも事実で、特に「ここまでは良くて、ここからは不可」というルールの線引きが曖昧なところがあったために、混乱を招くと選手の不評を買った。


また、今年のこの時期のパリは例年にも増して寒く、天候も不安定で、長袖のウェアやロングパンツを着込んでプレーする選手が多く見られ、新型コロナ対策同様、選手は体調の管理にも苦労させられた。アレクサンダー・ズベレフ(ドイツ)は38度の熱があったのにもかかわらず誰にも止められることなくプレーを続けたように、他の選手から大会側の競技進行に疑念を持たれる場面もあった。


例年の雨天順延とは違った意味で天候に悩まされた大会だったが、一方でメインコートのコート・フィリップ・シャトリエに開閉式屋根と夜間照明設備が完成したため、競技はつつがなく進行できたなど、問題面や改善面が浮き彫りになったと言える。


ここからは全米、全仏の取り組みについて、項目別に見ていこう。


<観客>


全米:無観客。


全仏:当初、3つのエリアに分ける形で1万1500人が入場できるというプランを打ち出したが、感染の再拡大により結局、最大1000人まで収容人数を絞ることを余儀なくされた。ソーシャルディスタンスを守り、隣り同士には座らず間には空席を置くことを義務付けた。一つのグループの人数を4人までに限り、隣り合わせに座るのを認めた。11歳以上は常にマスクを着用。スタジアムの随所に消毒ジェルを設置した。


<競技種目>


全米:男女シングルス、ダブルス、車いすなど計10種を開催。予選、混合ダブルス、ジュニアは行わない。


全仏:混合ダブルスを除き、男女シングルス、ダブルス、車いす、ジュニアなどすべての種目で、本選はもちろん予選も実施。


<賞金>


全米:賞金総額5340万ドル(約56億3000万円)は昨年から6.7%ダウン。男女シングルス優勝者の減少額が最も大きく、昨年から22%減り300万ドル(約3億1600万円)に。一方で1回戦敗退者の賞金は6万1000ドル(約643万円)と、昨年より3000ドル(約31万円)アップした。


全仏:2019年大会より11%減少して賞金総額は4430万ドル(約46億7000万円)。その分配はコロナ禍に鑑み、最もお金が必要な選手へ多めに渡るよう考慮して計算された。そのため今年のシングルス優勝者の賞金は、昨年の270万ドル(約2億8400万円)から180万ドル(約1億8900万円)と3分の2に減少。一方で1回戦敗退者の賞金はおよそ7万ドル(約738万円)と、昨年から約30%アップしている。


<予選>


全米:選手および関係者の安全を考慮して実施せず。


全仏:多数の選手がエントリーするため、混雑回避のために無観客で開催。予選の賞金総額は27%アップした。予選1回戦敗退の場合、賞金は1万1500ドル(約121万円)と、昨年比42%増。これは、ランキング下位選手が最もパンデミックの影響を受けたためとしている。


<選手のテストおよびプロトコル>


全米:選手および大会関係者と外部の接触を断つ「バブル」アプローチは、選手の自由を大きく制限したが、感染のリスクも大きく減少した。ビリー・ジーン・キング・ナショナルテニスセンターは一つの大きなアウトドア・ラウンジとして機能し、選手はトレーニングや試合の時以外はマスク着用を要請されたが、概ね自由な時間を過ごせた。観客がいないため、選手たちはリラックスした気分で過ごせたが、一方でアンディ・マレー(イギリス)が「悲しい気分になる」と言うように、不便を感じる選手も多かった。選手はバブル・プロトコルに違反しない限り、望めば大会側が用意したホテル以外でも滞在を許されたが、マンハッタンへの移動は禁止された。


全仏:選手および関係者はパリ到着後、新型コロナの検査を義務付けられた。72時間後に受ける2次検査の結果も陰性なら、その後は「定期的なインターバル」で検査を行う。選手は二つある公式指定ホテルのいずれかに滞在するとしているが、当該場所以外での行動の制限についての説明はない。当該ホテル以外への滞在は認められなかった。選手は試合のある日に限ってローラン・ギャロスに来ることができ、それ以外の待機日は普段ラグビー施設として利用されることの多い、近接するジャン=ブーアン・トレーニングセンターの利用のみ許可された。同センターのワークアウトやリラクゼーション、フードサービスといった基本的な設備はローラン・ギャロスと同等で、トレーニング中以外はマスクの着用が求められた。


<コート内でのセーフティ・プロトコル>


全米:タオルの手渡しは禁止とし、選手のタオル利用には25秒ルールを適用。選手からはタオル利用時に急かされている感じがすると不評だった。メインコートであるアーサー・アッシュ・スタジアムとルイ・アームストロング・スタジアム以外のコートでは、線審を置かない代わりにホークアイ・システムが採用された。


全仏:会場内のすべての接触箇所の表面はシステマティックに消毒。消毒ジェルをあらゆる箇所に設置し、ボールパーソン、線審、主審はマスクを着用する。タオルに関しては全米と同様のセーフティ・プロトコルが採られた。


<インフラの変化>


全米:過去一年以上にわたって大きな改修などは行っていない。ビリー・ジーン・キング・ナショナルテニスセンターはローラン・ギャロスより1.5倍広く、ナイトゲームの経験も豊富なため、安全管理やソーシャルディスタンスに関する制限があっても、試合スケジュール自体にはほとんど影響はなかった。ただしルイ・アームストロング・スタジアムに隣接するグランドスタンドは、直前にスケジュールが組まれた「ATP1000 ウェスタン&サザンオープン」に利用されたため、全米での使用は見送られた。


全仏:メインコートのコート・フィリップ・シャトリエに開閉式屋根と夜間照明設備が付けられ、屋外の12のコートにも照明がついた。ナイトゲームは今回なかったが、それでも夜までもつれた試合や雨天時にこうした新機能が威力を発揮した。


(文/生盛健)


※写真は「全米・全仏オープン」での男子・女子シングルス優勝者たち     (Getty Images)

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