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コラム

ナダル、マレー ...怪我とともに生きる選手たち

写真は2016年「ATP1000マドリード」でのマレー(左)とナダル(右)

アスリートに怪我はつきものだ。格闘技に怪我が多いのは当然だが、コンタクトスポーツであるサッカーやアメリカンフットボールでも、常に怪我のリスクがつきまとう。

それに比べると、タイムや距離を競う個人競技や、相手に直接触れるわけではないテニスなどは、怪我の頻度はそれほど高くなさそうに見えるが、近年テニス界における故障者、怪我人の頻度は、他のどのスポーツよりも高い。スポーツとしてのテニスは時間制ではないため、相手と試合が競れば競るほど、競技時間が伸びる。2時間3時間はざらで、それ以上の長丁場になることも珍しくない。シングルスの場合、それをすべて一人で戦わなければならない。


また、近年のテニスサーキットはその多くがハードコートで行われるため、膝や足首、腰に多大な負担をかける。クレーコートや芝が主体だった時代は怪我といえば肘や肩がほとんどだったが、現在では腰から下、特に膝やハムストリングスを負傷することが多い。今年の「全米オープン」で、優勝した大坂なおみ(日本/日清食品)をはじめ、女子シングルスの準決勝に残った4人中3人がハムストリングスにサポーターを巻いていたのを覚えている人もいるだろう。


有名テニス選手は、ハードコートを転戦するサーキットへの出場を義務付けられている場合が多い。そうでない選手も、ランキングを上げるためにできるだけ多くのトーナメントに出場せざるを得ず、結果としてランキング上位選手から下位選手まで満遍なく故障者が頻出している。肘の怪我自体も減ったわけではなく、ラケットが木製からグラスファイバーといった新素材へと開発が進んだ結果、よりトップスピンを多用するようになり、手首や肘への負担は増しこそすれ減ってはいない。これらの事情により、怪我をする選手が後を絶たないのだ。


そんな状況下で、怪我に苦しみながらも懸命にプレーし続ける選手たちをご紹介していこう。


ラファエル・ナダル~2019年の「最悪」を乗り越えたメンタルの天才


ノバク・ジョコビッチ(セルビア)、ロジャー・フェデラー(スイス)とともに3強の一角を占めるラファエル・ナダル(スペイン)の場合は、手首と膝、特に膝の故障に悩まされてきた。クレーコートのスペシャリストと呼ばれ、ベースラインからの強烈なトップスピンをかけたストロークプレーが身上のため、必然的に試合時間は長くなりがちだ。それが手首や膝にいい影響を及ぼすわけはなく、ビッグ3では抜きん出て怪我に泣かされてきた。


ナダルは2012年、2014年、2016年、2018年と、2年ごとに膝や手首の怪我でシーズンの大半を棒に振ったり、出場していた大会を棄権してきたが、その度に不屈の闘志とリハビリで復活してきた。とはいえ現在34歳となり、身体的にはピークを既に超え始めている。2019年は、春先に「ATP1000 インディアンウェルズ」で右膝を痛めてから、ヨーロッパに戻っても当初は得意のクレーコートのトーナメントで勝てなかった。この時期は精神的に最悪だったと、のちに本人が語っている。何もやる気が起きず、コーチのカルロス・モヤが、こんなナダルは見たことがないと言うくらい落ち込んでいた。しかし、3連覇がかかる「全仏オープン」まではとにかくやってみようと、毎日一つ一つのプロセスをおろそかにせず取り組むことで、少しずつ自信を回復していき、最終的に3連覇、通算12度目の優勝を達成した。


この、決して挫けないメンタルの強さこそ、ナダルが幾度も怪我に苦しみながらも一線に居続けられる最大の理由だ。モヤはナダルを「メンタルの天才」と称しており、こればかりは持って生まれたもので、努力したからといって誰もが身につけられるものではない。


またメンタルの強さは、勝ち続けても天狗にならない精神面の安定にも繋がっている。「僕は感情的にはだいたい安定しているんだ。いいことが続いても舞い上がらずに最後まで平静でいられるし、悪いことを受け入れる上でも助けになる。勝つ時もすべてが最高なわけではないし、負ける時でも全部が最悪なわけじゃない」


2020年は、そんなナダルにとっても初めて経験する、新型コロナウイルスによるパンデミックという嵐に巻き込まれた。「全豪オープン」ではドミニク・ティーム(オーストリア)に準々決勝で破れはしたものの、今季充分戦えるという印象を与えていただけに、コロナによる長期のシーズン中断は、本人にとっても周りにとっても残念だった。テニス界が「全仏オープン」の延期、「ウィンブルドン」の中止という試練に見舞われる中、無観客ながらも開催された「全米オープン」をナダルは辞退し、「全仏オープン」を含むヨーロッパでのクレーコートのトーナメントに焦点を当てたスケジュールを組んだ。


しかし蓋を開けてみると、「ATP1000 ローマ」の準々決勝で、過去無敗だったディエゴ・シュワルツマン(アルゼンチン)相手にストレート負けという結果になった。それでもナダルは、「彼は素晴らしい試合をしたが、僕はそうじゃなかっただけ。今はディエゴを祝福したい」と、淡々と彼らしいところを見せた。負けは負けと認めて、また挽回してくるところがナダルの本領。既にその視線は全仏へ向けられている。


アンディ・マレー~あわや引退からの復活劇をもたらした最後通告


アンディ・マレー(イギリス)は精神的にはナダルとはまったく正反対のタイプの選手で、しばしばメンタルの弱さを指摘されてきた。技術的には素晴らしいものを持っているが、勝負の肝所や競っている場面で、安全に行き過ぎたり、ちょっとしたミスから自滅するというパターンが多かった。しかし2010年代にそれらを克服し、トップ選手の仲間入りを果たした。


近代テニス選手の一人として怪我とは無縁ではなく、2013年には腰を手術して長期休養している。だが、やはり最大の問題は、長い間苦しめられていた股関節の痛みだ。2017年の「ウィンブルドン」の後でツアーを離脱して休養したが痛みは引かず、2018年初頭に手術。6月に復帰するが、勝てずに悶々とする時期が続いた。かつて世界1位だったランキングは839位まで落ちた。


2019年1月の「全豪オープン」直前に記者会見したマレーは、股関節の痛みがゆえに靴を履くのにも苦労するほどで、これ以上プロテニス選手としてやっていけるかどうかわからないと、涙ながらに引退を示唆した。同大会で初戦敗退となった後、再び股関節の手術に踏み切った。リハビリ中の3月にインタビューを受けた際には、「復帰はしたいが、それがいつになるかはまったくわからない」とした上で、「今は幸せだよ。なぜなら痛みがまったくないから。リハビリはゆっくりだけど着実に進んでいる」と、復帰に意欲を見せた。


そして、6月にまず「ATP500 ロンドン」にダブルスで復帰、8月にはシングルスでも復帰した。さらに10月の「ATP250 アントワープ」では約2年半ぶりにシングルス優勝を果たし、完全復活を印象づけた。一時は本人も周りも引退と思っていたどん底からの復活劇はまさに劇的だった。優勝した時の相手が、同様に怪我の多いスタン・ワウリンカ(スイス)で、フルセットの逆転勝ちだったことも、よりドラマティックな印象を与えた。


マレーはこの復活劇について、最も大きなモチベーションとなったのは、医者からの最後通告だったと答えている。1回目の股関節手術の際、二度とプロスポーツ選手としては活動できないだろうと言われたのだ。それが逆にマレーを奮起させた。「あれにはカチンときたね。あの言葉が一番のモチベーションになったよ」


その後マレーは11月の「デビス・カップ」後に骨盤を痛め、2020年の「全豪オープン」を棄権。そこからは新型コロナウイルスの蔓延もあり、プレーできない状況が続いた。約9ヵ月ぶりに出場した「ATP1000 ウェスタン&サザンオープン」では3回戦で敗退したが、直後の「全米オープン」では1回戦で西岡良仁(日本/ミキハウス)相手に2セットダウンでマッチポイントを握られながら逆転勝ちするという底力を見せた。2回戦でフェリックス・オジェ アリアシム(カナダ)にストレートで敗れたものの、本人は内容にそれほど不満を見せていない。今後のグランドスラムについても「非常に難しいだろうが諦めない」と語っている。


(生盛健)


※写真は2016年「ATP1000マドリード」でのマレー(左)とナダル(右)
(Photo by Burak Akbulut/Anadolu Agency/Getty Images)

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