コラム

改めて振り返るセレナのルール違反 「誰もがやっている」コーチング、「男子なら許される」暴言

大坂なおみが日本人初優勝の偉業を達成した全米オープン。決勝では対戦相手のセレナ・ウィリアムズがラケットの破壊や審判への暴言に及び、1ゲームを失うペナルティを受けた上、試合後に1万7000ドル(約190万円)の罰金処分が下った。きっかけとなったコーチング(助言)禁止ルールの是非と、ペナルティは女性差別であるというセレナの主張を巡り、海外で意見が割れている。

◆3度の違反 きっかけはコーチの助言
セレナが一連の警告を受けたのは、決勝第2セット。第2ゲームで、もう少しベースライン寄りでプレーすべきだというジェスチャーをコーチが出したところをラモス主審が見咎め、1度目の警告を与えた。ゲーム中の助言は禁止されているためだ。ジェスチャーを出したのはコーチだが、プレイヤーは関係者の振る舞いに責任を持つというルールブックの規定に従い、警告はセレナへ。これが一連の騒動のきっかけとなった。コーチは助言行為を行ったと認めているものの、ゲーム中のコーチングは多くのプレイヤーが行っていると述べ、警告には不満を露わにしている。

セレナは後の第5ゲームで試合内容にフラストレーションを感じ、ラケットを破壊。2度目のコード・バイオレーションを取られ、ポイント・ペナルティが課された。第8ゲーム前には主審に「(ポイントを奪った)泥棒」と暴言を吐いたことで3度目の警告となり、ペナルティとしてこのゲームを無条件で失った。

◆繰り返されるコーチング行為 ルール変革の時か
今回の一件についてオーストラリア放送協会は、コーチングを許可するようルールを変えるべきかという議論のきっかけができた、と評価。現状、四大大会を除くWTAツアーでは、1セットにつき1回までのオンコート・コーチングが許可されている。全米テニス協会のステーシー・アラスター氏(女子テニス協会(WTA)前CEO)は、この枠組みの導入を推進してきた一人。四大大会にオンコート・コーチングを導入するのは前進的すぎるとの批判があることを認めた上で、観客席の特定のプレイヤーボックスからの助言を提案する。現状でも観客席からの助言は常態化しており、しっかりとルールに組み込むことでファンをより熱狂させることができるとの立場だ。一方でウィンブルドン主催クラブのリチャード・ ルイスCEOは、コーチング解禁はテニスの根幹を変えてしまう、と否定的な立場を示している。

いずれにせよ今回の審判のジャッジについては、最初にソフトな警告をすべきだったのでは、という意見もある。元プロ選手のマルチナ・ナブラチロワ(チェコ)は、New York Times紙(NYT)に寄せたオピニオン記事のなかで、通常ならば審判は警告の前にソフトな注意を与えると指摘。今回もこの形で進めていれば、本格的な警告に至る前にセレナがコーチを制止でき、一連の問題には至らなかったのではないかと見ている。

◆男女差別で議論沸騰 しかしその論点はズレているとの指摘も
もう一つの争点は、暴言によるペナルティが女性差別かという点だ。往年の女子プレイヤーであるビリー・ジーン・キング(アメリカ)はツイッター上で、女子が感情的になると「ヒステリカル」とされ、男子の場合は「率直な意見を述べている」と受け止められる、というダブルスタンダードを指摘。ロイターによると男子の元選手、ジョン・マッケンローも、男女で基準が異なることは疑いようもないと述べ、不公平を認めている。

一方で記事は、元ATPツアー幹部で主審を務めた経験もあるリチャード・イングス氏の反対意見も掲載。ラモス主審の判断は性差別や人種差別とは何ら関係のないものであり、ルール違反に目を光らせて差別なく適用した結果だとし、主審の正当な判断を強調している。

性差別の議論が熱を帯びるなかで、そうした論争はポイントがずれているとの意見も。前掲のNYTのオピニオン記事のなかでナブラチロワは、テニスに限らずダブルスタンダードが存在することは事実だとし、セレナに一定の理解を示す。しかし、男子の暴言が許されるのだから女子も許されるべきだという思考が正しいとは思わないともコメント。どんなプレイヤーであれ、競技と対戦相手に敬意を抱くべきであり、暴言は許されるべきでないと主張している。自身もゲーム中にラケットを破壊したい衝動に襲われることは何度もあったが、子どもたちが観ているのだと考えることで思い留まったとのことだ。セレナの怒りをきっかけに、ルールと性差別をめぐる議論が熱を帯びている。

(テニスデイリー編集部)

※写真はペナルティは女性差別であると主張したセレナ(Leonard Zhukovsky / Shutterstock.com)

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