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コラム

戦うママたち。出産・子育てを経て現役続行中の女子テニス選手

数年前まで子どもをもつ現役女子選手は、テニス界では珍しい存在だったのだが、2018年の「ウィンブルドン」に、セレナ・ウイリアムズ(アメリカ)、ビクトリア・アザレンカ(ベラルーシ)、エフゲニヤ・ロディナ(ロシア)、カテリーナ・ボンダレンコ(ウクライナ)、タチアナ・マリア(ドイツ)、ベラ・ズボナレワ(ロシア)の6人の母親がシングルス本選に出場し、その傾向が変わりつつある。そんな母親業と選手の両立は想像以上に大変である一方、その分、とても充実したものでもあるようだ。母親たちの奮闘をいくつかのケースに分けてご紹介したい。

■"スーパーママ"だって人間。率直な感情を表現する女王に賛同集まる

まずは、現在テニス界で最も有名な母親プレーヤー、"スーパーママ"ことセレナ。2017年1月、「全豪オープン」開幕直前に妊娠が判明したが、そのまま出場して優勝。9月に娘を出産した後は合併症を伴うほどの手術を経験したこともあり、郵便受けまで移動するのも困難な時期があったという。それでも翌2018年1月に正式に復帰し、出産から10ヶ月後の「ウィンブルドン」で第25シードとして出場して準優勝を果たした。

母親となったことについて「まったく新しい生活でとにかく楽しいの」と語り、夫や家族にも支えられて、見事に2つの役割を両立しているように見えるが、実際には辛い思いも味わっているという。娘が初めて歩いた瞬間をトレーニングで見逃してしまうなど、子どもに十分尽くせていないのではないかと悩み、産後うつになったと明かしている。しかし、トップアスリートにはタブーとされるそうした感情を臆せずに発信し続け、世の中の母親たちや同じ選手たちから大きな賛同を得ている。

■1位から978位になったことを糧に対応改善に挑む

セレナに賛同する一人、アザレンカの場合、母親として大きな問題を抱えることになった。2012、2013年に「全豪オープン」で優勝した元世界1位は、2016年12月に息子を出産したが、子どもの父親である恋人と別れてシングルマザーに。しかも、その元恋人と子どもの親権をめぐり争うことになり、子どもを連れてカリフォルニア州外へ出ることを禁じられたことで長期間ツアーに出られなかったのだ。

それによりランキングは一時978位まで落ち、2017年の「ウィンブルドン」ではノーシードで出場した。ツアーを回れるようになった今も息子中心の生活で、「あの子が寝ている間に練習やストレッチをしているの。でも15分離れているだけで罪悪感を覚えてしまうわ。バランスを取るのが大変ね」と、両立することの難しさを吐露。「もちろん息子が最優先だけど、テニスは今でも大事な存在よ。情熱を持っているし、競争し続けたい」

そんな彼女はWTA(女子テニス協会)選手会の一員としてコート外でも奮闘。負傷、病気、妊娠により休暇を取った選手に対して、一定数のトーナメントに離脱前の順位で出場できる「プロテクト・ランキング」といった母親たちにも関係する対応改善について積極的に取り組んでいる。

■経済的な問題が復帰をより困難なものにすることも

また、ランキングが上位でない選手の場合、両立においては、ワイルドカードといった選手としての恩恵を受けにくいだけでなく、経済的な問題も大きい。2018年の「ウィンブルドン」4回戦でセレナとのママ対決が話題となったロディナもその一人だ。2011年の74位がキャリアハイの彼女は翌2012年の出産後、「フィジオやヒッティングパートナーを帯同させるお金がない」ため、グランドスラムなどではロシアの連盟が用意したスタッフの助けを得ていたという。「プレーの仕方を忘れたわけではないけど、一番きつかったのはフィットネスね。まだ体を絞れていなくて、以前のパワーが出なかったの」と、復帰までの道のりについてふり返る。

■夫と子どもと三人で3度の優勝を果たしたママも

ロディナが苦労を語る一方で、シングルス、ダブルスともにキャリアハイで50位前後のマリアは、母親業との両立を「ぜひやるべき」と語る。2013年末の出産後、4ヶ月でツアーに復帰し、夫であるコーチと二人三脚でテニスと子育てに取り組んでいる。妊娠中はバックハンドを両手打ちから片手打ちに変更し、出産後は自宅にある夫の作ったテニスコートで子どもが寝ている間に練習と、時間を有効活用してきた。

子どもの存在はマリアに精神面でポジティブな影響を与えている。「試合に負けた時、一人だと辛いの。でも家族が一緒なら10倍リラックスできる。子どもの顔を見ると、自分のプレーがどうだったかなんて気にならなくなるから。テニス以外に集中すべきものができると、コートでは何もかもが簡単に見えるのよ」

実際、2013年4月の復帰以来、2017年末時点で子どもをツアーに連れていかなかったのはわずか3回。2017年はシングルス100位以内の選手として最多となる33大会に出場し、キャリアハイの46位で終えた。そして2016年の「クラロ・オープン・コルサニータス」、2018年3月の「メキシコ・オープン」、同年6月の「マヨルカ・オープン」と、シングルスとダブルス合わせて出産後3つ目(通算4つ目)のWTAタイトルを獲得し、娘とともにトロフィーを掲げている。

出産後にグランドスラム優勝を果たしたのは歴代でわずか3人。1970年に活躍したマーガレット・コート(オーストラリア)とイボンヌ・グーラゴング(オーストラリア)、そして2009年の「全米オープン」を制したキム・クライシュテルス(ベルギー)だけだ。一方、2018年3月時点での、女子シングルスのランキングで上位100人のうち母親なのは4人のみ。グランドスラム覇者であるシュテフィ・グラフ(ドイツ)、アメリー・モレスモー(フランス)、アナ・イバノビッチ(セルビア)、リー・ナ(中国)などは引退後に出産した。女性が出産しやすい、そして復帰しやすい環境を作っていくことが、テニス界でも求められつつある。

(テニスデイリー編集部)

※写真は左からタチアナ・マリア(Photo by Clive Mason/Getty Images)、セレナ・ウイリアムズ(Photo by Julian Finney/Getty Images)、ビクトリア・アザレンカ(Photo by Chaz Niell/Icon Sportswire via Getty Images)、エフゲニヤ・ロディナ (Photo by Visionhaus/Corbis via Getty Images)

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