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テニス界もメジャーリーグ化?データ分析が欠かせない理由とは

2012年「全豪オープン」でのロジャー・フェデラー

メジャーリーグやNBAなどでは個人の能力を測り、戦略を立てる上でデータ分析が重視されているが、最近はテニスでもその傾向が強くなってきている。近年のテニスにおけるデータ分析の重要性を「全仏オープン」公式ホームページが解説している。

例えば、データ分析を使用すれば、次のような問いにも簡単に答えることができる。ラファエル・ナダル(スペイン)が「全仏オープン」で圧倒的強さを見せるのは、長いラリーで相手を疲れさせるからである。○か×か?


意外に思う人もいるかもしれないが、実は質問の答えは×だ。データ分析によると、ナダルは短いラリーの時ほどポイントを獲得する確率が高い。昨年のノバク・ジョコビッチ(セルビア)との決勝で、ナダルは「短いラリーでジョコビッチを完全に圧倒していた」とデータ分析の専門家Raghavan Subramanian氏は語った。


昨年の決勝で、6-0、6-2、7-5でジョコビッチを破ったナダルは、4ショット以下のラリーで53ポイントを取っている。一方のジョコビッチは25ポイントだった。さらにナダルはエラーの数を低く抑えていた。ラリーの3ショット目で、ジョコビッチは16回もエラーを犯したが、ナダルはたったの1回だ。


特にブレークポイントでは、ナダルは「プレッシャーをかけつつ、ややリスクを抑えた試合運びをしていた」とSubramanian氏は解説する。「急所を突く攻撃を早めに仕掛けることはない。重要なポイントのほとんどで、非常に堅実なプレーをしている」


「全仏オープン」のサイトでは、すべてのポイントの情報をAIが分析し、選手やコーチだけでなくファンやメディアに対し、戦略や選手のパターンなど様々に役立つ情報を提供している。例えばポイントごとのプレーを確認したり、ストローク概要から選手の得意なストロークを見たり、ラリー分析から選手の戦略の変遷を見ることができる。さらに選手やコーチらに対し特別なアプリを開発。ビデオで自分の試合を見られる他、ブレークポイントなどプレッシャーが掛かる場面でどのようなプレーをしたか、特定のショットがどこまで効果的に使用できたかなどの分析結果を利用することができる。


他のスポーツに比べ、テニスはエビデンスを基にしたデータ分析を取り入れるのがやや遅かった。このようなデータ分析を有名にしたのは2000年代にメジャーリーグのオークランド・アスレチックスでゼネラルマネージャーを務めたビリー・ビーン氏だ。ビーン氏はデータ分析を使って評価されていない埋もれた戦力を見出し、強豪チームとも戦えるようなチーム作りを行った。彼の物語はマイケル・ルイス氏により「マネー・ボール 奇跡のチームをつくった男」という題名で小説化され、2011年にはブラッド・ピット主演で映画化もされている。


テニス界でデータ分析が重要視されるようになったのはここ10年ほどで、今となっては多くの選手がそれぞれ独自の“マネーボール”分析を取り入れ、試合に役立てている。


「今、データ分析はとても重要になっている」と語るのは女子世界ランキング24位のオンス・ジャバー(チュニジア)。彼女のチームには、試合後にデータをまとめて分析する担当者がいる。「データを使わずにプレーする選手はいないと思うわ。言うまでもなく、私たちをすごく助けてくれるものよ」


時に、選手が試合で感じたことと、実際に起こったことが異なる場合がある。現在シモナ・ハレプ(ルーマニア)のコーチを務めるダレン・ケーヒル氏 (オーストラリア)は、2009年に試験的にロジャー・フェデラー(スイス)をコーチした時に感じたことがあると言う。二人は、フェデラーが「全豪オープン」決勝でナダルに敗れた後まもなくコーチングのセッションを設けた。当時、ケーヒルはテニスの試合を分析する新しいソフトウェアを使い始めたばかりだった。


ケーヒルはフェデラーに対し、ナダルとの試合の重要なポイントでどのように戦ったと思うか、と尋ねた。「“かなり攻撃的に、ファーストリターンで彼のバックハンドに仕掛けていった。あまり悪い動きはしていないと思うよ”と彼は言った」とケーヒルは当時を振り返る。「その後、試合の録画を見直して、それらのポイントをチェックしていった。彼がどこに立っていて、どこへ動いたのかを見ていったら、彼は“僕が覚えているのとちょっと違うな”と言ったんだ」


ジャバーも、記憶と現実は異なることがあると認めている。「私たちに見えていないことがあっても、データが示してくれる。データ分析を取り入れていて良かった、と言えるわ」


大坂なおみ(日本/日清食品)のコーチを務めるウィム・フィセッテ氏(ベルギー)は、データ分析を大坂に紹介した。以来、大坂はグランドスラムで2度優勝している。「なおみはこれまでデータを使ったことがなかった」とフィセッテ氏は2021年の「全仏オープン」が始まる2週間前の取材で明らかにしている。フィセッテ氏はこれまでキム・クライシュテルス(ベルギー)やアンジェリック・ケルバー(ドイツ)などグランドスラム優勝選手のコーチをしてきた。彼はデータ分析を主に試合後の分析に使っている。


「例えば、マドリードでのなおみの2回戦を見てみると、ファーストサーブやセカンドサーブの後にフォアハンドを打つと60%の確率でポイントを取っていることがわかった。でもバックハンドになると42%に落ちていた。これは、クレーでは納得できる結果なんだ。でもなおみにとって紙の上で見ることはとても面白かったみたいだ。もちろんハードコートではまったく別で、リターンが返ってきて、フォアハンドでもバックハンドでも強打を打てば、彼女はだいたいポイントを取ることができる。でもクレーではそうはいかないんだ」


フィセッテ氏は、このような試合後の分析を選手に伝えすぎないように気をつけているという。彼曰く、試合後は彼の分析結果から2、3点を伝えるようにしているそうだ。「分析結果はとても明瞭だ。白黒はっきりしていて、議論の余地はない。数字は嘘をつかない。何を向上させなければならないか、教えてくれるんだ」


(テニスデイリー編集部)


※写真は2012年「全豪オープン」でのロジャー・フェデラー
(Photo by Clive Brunskill/Getty Images)

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