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グランドスラム

2年ぶりに観客迎えた全米オープンテニス ニューヨークの街や会場の様子は?【ニューヨーク在住ライター現地コラム】

 ニューヨーカーにとって、プロスポーツ観戦は日常の一部といえる気軽なもの。その中で、世界中のトッププレーヤーが集まる華やかさがありながら、一枚のチケットでたくさんの試合を観戦でき、観客に混じって会場を移動する選手と遭遇する機会もある全米オープンテニスはアミューズメントパークのような楽しさがある特別なものでした。


マンハッタンの街の変化


 以前ならば、大会期間中にマンハッタンの街中を歩いているだけで選手に、例えばロジャー・フェデラー選手が開発に関わっているシューズを扱うショップを訪れる場面に出くわす、なんてこともありました。しかし、昨年の大会は新型コロナウイルス感染拡大対策として、外部接触を遮断する「バブル」環境、試合も無観客で行われたため、当然そんな機会は皆無。今年、選手とスタッフはマンハッタン・ミッドタウンにある二つの公認ホテルでの滞在を推奨されてはいますが、ある程度の自由が与えられています。写真を撮るために訪れたInterContinental New York Barclayではセレナ・ウィリアムズ選手らのコーチとして知られるパトリック・ムラトグルーが路上でインタビューを受けている姿を見掛けました。そんな何気ない様子に全米オープンテニスが戻ってきたことを実感します。


 このホテルの近くに、「レストラン日本」があります。ニューヨークでの日本料理店の先駆者、倉岡伸欣氏(故人)による創業から半世紀を超える老舗で、著名な政治家、芸能人、スポーツ選手もひいきにしています。大会期間中には世界各国のテニス選手が訪れることでも知られ、日本人選手では伊達公子さん、松岡修造さんといった往年の名選手から、「ニューヨークで一番好きな場所」と公言する錦織圭選手はじめ現役選手にもファンが多くいます。選手たちを長年見守ってきた同店副社長で総支配人の馬越恭弘さんは、「倉岡の時代から受け継ぐ、我々は『黒子に徹する』という方針が、皆さんが心を開いて、安心できる雰囲気を作っているのかなと思います」と話してくれました。


 コロナ禍のニューヨーク市内では飲食店の営業はかなり制限され、閉業した店もたくさんあります。レストラン日本も、44年間支えてきた馬越さんが、「これまで乗り越えてきたこととは次元の違う」というほどの苦難を味わいました。そんな状況の中、2020年5月に存続をかけて行ったクラウドファンディングでは、地元コミュニティーに加え、多くのテニス選手からの支援もあったそうです。そこからも絆の強さを感じます。


 ここでは和食はもちろん、世界中のテニス選手たちに人気があるのはプライムリブ肉をぜいたくに使い、和風ドレッシングでいただく「ビーフサラダ」。また、1980年代に一人海外を転戦していた岡本久美子さんに渡して以来、おむすびに焼き魚、卵焼きなどを添えた特製の弁当を、訪れた日本人選手に土産として持たせているそうです。


クイーンズの会場の変化


 会場となるUSTAビリー・ジーン・キング・ナショナル・テニス・センターは、公認ホテルのあるマンハッタンの中心部から車で約20分、地下鉄(7ライン)で約40分のクイーンズ・フラッシングメドウズ・パークにあります。開催直前に全入場者にワクチン接種証明の提示を求める措置が発表されたため、初日は明らかに確認作業に手間取っている様子で、長蛇の列ができる混乱はありましたが、それでもこの日は53,783人以上が訪れて賑わいました。


 今回、市内の様子の他に大会の名物のカクテルとフードを紹介してほしいというリクエストを受けました。カクテルは名物の「Honey Deuce」がありますが、フードの名物はあるのか知らなかったので、会場を移動中のボランティア、カレンさんを捕まえ質問してみました。「そういわれると…、名物ってあるのかな」。明らかに困惑した表情を浮かべたので、「食べておいしかったものは?」と質問を変えると、弾けるような笑顔を見せながら、「ボランティア仲間と食べた魚はおいしかったよ」と教えてくれました。早速フードビレッジに赴くと、食事中のボランティア3人組(1人は魚のフライを食べていました)を発見したので、ここでも聞くと、「そこだよ」と教えてくれたのがFish Shack。実はメニューを見る限り、推しは「Lobster & Shrimp Salad」のようでしたが、ここはカレンさんを信じて、魚(たらフライ)のサンドイッチ「Crispy Cod Sandwich」を「名物」として食べることに。タルタルソースをかけて食べるサクサクのフライが絶品でした。


 もう一つのお目当て、名物カクテルの「Honey Deuce」はレストランや会場の至るところにあるスタンドで注文できます。カクテルを作っているディアラさんに聞いたところ、初日の昼すぎの時点で、「かなりたくさん作ったわ」とのこと。


 そう言われると、たしかに開場間もないのに、かなり多くの人がHoney Deuce片手に移動している姿が目につきました。その中でとりわけ楽しそうに話していた男女4人組に、「写真を撮ってもいいか」と声を掛けました。すると、そのうちの一人が「今日は会社さぼって来ているから、僕は写さないでくれ」と言って、Honey Deuceで顔を隠す姿に一同は大爆笑。


 そんな様子を見ながら、ニューヨーカーにとって、テニスファンにとっても特別な全米オープンが戻ってきたんだなと、喜びを改めて噛み締めました。



(田中真太郎)


(Photo by Shintaro Tanaka)

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