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薬物使用と戦うなら、シャラポワのために涙を流すな [AP通信コラム]

「BNL イタリア国際」初戦でのマリア・シャラポワ(ロシア)

 ドーピング(薬物使用)に対する戦いの中で、ときに助けは、もっとも予想していなかったところからやってくる。

 全仏オープンのオフィシャルたちは、彼らの大会でマリア・シャラポワ(ロシア)がプレーできるよう、彼女に義務の免除----つまりワイルドカード(主催者推薦)を苦も無く与えられたはずだった。今、彼女は薬物使用によって科された15ヵ月の出場停止処分の務めを果たした。多くのファンたちは、彼女が意図的に薬物を摂取していたのではないと主張したことで、彼女に同情し、ワイルドカードを与えると決めたとしても、それほど激怒しなかったはずである。

 そして、セレナ・ウイリアムズ(アメリカ)が妊娠中であり、プレーできない今、女子のドローを盛り上げるために、スターであるシャラポワのパワーを景気づけに利用してもいいはずだった。

 ところが、フランス・テニス連盟会長のベルナール・ジウディセリは、今月パリで始まる全仏オープンの本戦、予選双方へのワイルドカードをシャラポワに与えることを拒み、ほかの大会のオフィシャルが恐れたであろうところへ行く勇気を見せた。彼を称えようではないか。

「私はマリアや、そして彼女のファンたちのために非常に残念に思う。彼らはきっとがっかりするだろう。彼女も非常にがっかりするかもしれない」とジウディセリは言った。「しかしテニスと、その高潔な基準を守るのは私の責任、私の使命なのだ」。

 想像してみてほしい。誰かが真剣に薬物使用に反対する立場をとっている。これは本当に重要な意味を持つことだ。

 ジウディセリは、単にシャラポワがグランドスラム大会のひとつでプレーするチャンスを拒んだのではない。彼は、薬物使用は実りを得るべきではない、というメッセージを送った。それは、ほかのスポーツのオフィシャルたちが、彼らのスポーツを汚辱している薬物使用者と対面するたびに、都合よく忘れてしまっている何かなのである。

 せめてオリンピックのオフィシャルだけでも、その点に注意を払っていれば----。

 韓国での冬季オリンピック開始まで、もう一年を切ったというのに----正確に言えば9ヵ月だ----薬物による不正がはびこっているだけでなく、国によって資金を与え、支援しているロシアをどうすべきかという問題が、いまだ解決されていない。

 ウラジミール・プーチン大統領は3年前のソチで、スキー・スロープを闊歩し、母国のアスリートを応援するためアリーナに陣取るなど、あらゆる場所に姿を現していた。薬物を使用したロシアのアスリートたちが表彰台を支配していたのだから、応援する対象も理由もたくさんあったわけだ。

 そうしている間にも、ロシアのオフィシャルたちは舞台裏で、メダル受賞者たちが捕まる危険がないよう尿のサンプルを入れ替えるため、ドーピングコントロール研究室の暗い部屋に毎晩、出向いて行っていたのだった。

 そしてそのことは、昨年のリオ五輪で、ロシアに軽い警告と罰を与えたに過ぎなかった。ドーピングのオフィシャルやほかの多くの者が望んでいた、夏季五輪からのロシアの完全追放はなかったのである。そして、韓国での冬季五輪に関しても、怯えたオフィシャルたちが、それ以上の何かをしそうな気配は今のところない。

「もしすでにそうでなかったとしても、我々がリオ五輪でそうだったのとまったく同じような立場に置かれることになる懸念はある」と、カナダのアンチドーピング機関の責任者、ポール・メリアは、今週モントリオールで行われた世界アンチドーピング機関の重役会議の際に、AP通信にこう語った。

 言い換えれば、薬物使用により不正な方策を行っているところを現行犯で逮捕されたにも関わらず、韓国でまたもロシアのアスリートたちを表彰台の上に見たとしても驚くなかれ、ということだ。ロシアのやっていることに張り合えるのは、1970年、怪しげに肩幅の広い金メダリストのスイマーたちを製造していた東ドイツの方策だけだろう。

 信じられないことに、薬物使用に対する戦いは、もはやかれこれ半世紀も続いているのである。ソウル五輪でベン・ジョンソンが100mで誰よりも速く走ったあとに陽性と判定された29年後に、ドーピングを取り締まる者が、当時以上にイカサマを行う者たちに打ち勝てるようになった、と言うに程遠いとは、まったく信じ難い事態だ。

 確かに、ジョンソンが捕まった時代と比べれば、ドーピングは今、より隠すのが難しくなった。しかし薬物使用者たちは、変わらずアンチドーピングのシステムを破り、スポーツの競技場を滑らかにならそうと決意して取り組んでいる者たちを出し抜くために、できるすべてのことをやっているのである。

 シャラポワと、ほかの多くのロシア人たちにとって、メルドニウムは彼らが選んだ薬物だった。長い間、それは禁止薬物でさえなかったのだが、その事実は、パフォーマンスを向上させる薬物が(次々と)考案されていく中で、アップデートな情報を取得し続けることの難しさを示している。

 ドーピングは今、コントロール下にある、と信じることができるのは、もっとも世間知らずな者たちだけだろう。オリンピック・スポーツだけでなく、秀でることが金銭的利益を生むすべてのスポーツにおいてそれは同様であり、おそらくそれが、今年多くのホームランが、記録的な多さで競技用の外に飛び出している理由のひとつでもあるのかもしれない。

 それでも、ドーピングに対する戦いは続いていく。完全に勝つことはできないだろうが、しかしことあるごとに戦わなければならない。

 全仏オープンが始まったとき、パリのファンたちは、そこに応援すべきシャラポワを見出すことはない。しかし、彼女が招待されなかったことは、我々皆が喜んで喝采を送るべき出来事なのだ。(C)AP

※写真は「BNL イタリア国際」初戦でのマリア・シャラポワ(ロシア)
Photo: ROME, ITALY - MAY 15: Maria Sharapova of Russia in action during the match between Maria Sharapova of Russia and Christina Mchale of USA during The Internazionali BNL d'Italia 2017 - Day Two at Foro Italico on May 15, 2017 in Rome, Italy. (Photo by Giuseppe Bellini/Getty Images)

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