マイページ

USオープン

秋山英宏 全米レポート(12)賢明な戦術と脚力でナダルがデル ポトロの大砲を封じた

写真は「全米オープン」準決勝でデル ポトロを破ったナダル

テニスでもっとも賢い戦術は、相手に無理をさせることだろう。ウィナーをどれだけ量産しても、ミスのリスクは常につきまとい、効率あるいは確率という点でいずれ限界がくる。それより、ウィナーは少なくても、相手にミスをさせること、しかも、リスクの高い選択肢をとらせ、少しずつ無理をさせてミスを誘うのが賢い戦い方だ。

フアン マルティン・デル ポトロ(アルゼンチン)を4セットで下したラファエル・ナダル(スペイン)には鮮やかなウィナーもたくさんあったが、より印象に残るのは、相手にミスを強いる戦い方だった。

一つには、バックハンドを中心にデル ポトロをうまく攻めた。

左手首の故障に長く苦しんだデル ポトロは、バックハンドでは両手打ちを避け、片手のスライスを選ぶことが多かった。しかし、今大会では、例えば準々決勝のロジャー・フェデラー(スイス)戦のように、両手からの攻撃的なバックハンドが機能した。準々決勝のあとで「大事な場面で今大会一番のバックハンドが打てた」と話したデル ポトロは、このショットに自信を得て準決勝に臨んだはずだ。とはいえ、どう考えてもデル ポトロのフォアハンドに打つのはうまい作戦ではない。

したがって、ラリーの大半はデル ポトロのバックハンド対左利きのナダルのフォアという構図になると思われた。

実際、序盤のナダルは相手のバックハンドにボールを集めたが、予想していた以上にラリーで苦戦した。両手打ちの攻撃的なバックハンドに加え、回り込んで打つデル ポトロのフォアが強烈だった。

ナダルは自身の戦術の誤りに気づいたという。
「僕はコートをフルに守らなければならなかったのに、彼は60%を守るだけだった」

バックハンドに集めたことで、デル ポトロはそこで待ち構えたのだ。そこで第2セットから戦術を変えた。集めるのではなく、フォアからバック、バックからフォアと左右に散らし、相手を振ったのだ。ナダルが言う。
「彼はバックハンド側で待っていたので、できるだけ予測させないように打たなければならないと気がついた」

ナダルはフォアのダウン・ザ・ラインを効果的に使い、相手を走らせた。左右に振られたデル ポトロは、少しずつ無理をするようになる。攻撃的に打つべきではない状況で無理をして打ってしまうのだ。

フォアハンドのミスが目立った。自分の武器だから、どうしても強打したくなるのだろう。だが、無理をしているから容易には決まらない。第2セットのデル ポトロは、フォアで1本のウィナーさえ決めることができなかった。

このセットのスタッツ(統計)は鮮やかなコントラストを見せる。デル ポトロはベースラインのラリーで22ポイントのうち3ポイントしか奪えなかった。一方のナダルはベースラインでプレーした18ポイントのうち16本をものにした。

第1セットはほぼ互角だったラリーの形勢は一気にナダルに傾き、デル ポトロのプレーが崩壊していった。

さらにもう一つ、デル ポトロに無理をさせたのがナダルの脚力だ。第1セットのデル ポトロは、フェデラー戦で見せたようなフォアの大砲を放ったが、ナダルはこれにしぶとく食い下がるのだ。

ポイントにならなくてもボールを返す、返らなくてもボールに触る、走る姿を相手に見せる。そのプレーが相手にプレッシャーをかけたと容易に想像できる。

だから、第1セットを奪ったデル ポトロが、逆に追い込まれているようにも見えた。デル ポトロも「試合をコントロールできているとは思っていなかった。ネットインが幸いしてブレークに成功しただけだったから」と振り返っている。

これだけ強く打たなければ、しかも精度高く打ち込まなければポイントに結びつかないのか。その思わせたことが、デル ポトロに少しずつ無理をさせ、第2セット以降のトーンダウンを呼び込んだと見ることができる。

それにしても、ナダルは盤石のフィジカルを見せつけた。素晴らしい躍動だった。

大砲を持つ選手が勝つとは限らない。テニスの一つの真理を示したナダルが決勝への切符を手に入れた。

(秋山英宏)

※写真は「全米オープン」準決勝でデル ポトロを破ったナダル
NEW YORK, NY - SEPTEMBER 08: Rafael Nadal of Spain returns a shot against Juan Martin del Potro of Argentina during their Men's Singles Semifinal match on Day Twelve of the 2017 US Open at the USTA Billie Jean King National Tennis Center on September 8, 2017 in the Flushing neighborhood of the Queens borough of New York City. (Photo by Clive Brunskill/Getty Images)

テニスデイリーのおすすめ

PAGE TOP
menu

ランキング人気記事ランキング

※写真はデビスカップ・ワールドグループ・プレーオフ「日本対ブラジル」(大阪・靭テニスセンター)の第1試合で杉田祐一と対戦したブラジルのギジェルメ・クレザ(左)とジョアン・スベスナ監督(右) Photo:OSAKA, JAPAN - SEPTEMBER 15: Team captain Joao Zwetsch (R) of Brazil talks to Guilherme Clezar of Brazil in his singles match against Yuichi Sugita of Jap

2017.09.17

スポーツマンらしくない行為としてクレザに罰金 [デ杯ワールドグループ・プレーオフ 日本対ブラジル]

新設のチーム戦「レーバー・カップ」に出場する(左から)ロジャー・フェデラー(スイス)とラファエル・ナダル(スペイン)、チーム・キャプテンのビヨン・ボルグ(スウェーデン)

2017.09.21

フェデラーとナダルはダブルスをプレーすることで合意、その決断はボルグ次第 [レーバー・カップ]

2017.09.16

ダブルスは雨で順延、17日に3試合を予定 [デ杯ワールドグループ・プレーオフ 日本対ブラジル]

※写真は「ジャパンウイメンズオープン」(東京・有明テニスの森)で予選から決勝進出を果たした加藤未唯

2017.09.16

「フィジカル・バトルなら負けない」加藤未唯が激戦制し、初のツアー決勝へ [JAPAN WOMEN'S OPEN]

※写真は「ジャパンウイメンズオープン」(東京・有明テニスの森)のシングルスで予選からベスト4進出を決めた加藤未唯

2017.09.15

加藤未唯が自身初のツアー準決勝進出「最後まで気持ちがぶれずにできた」 [JAPAN WOMEN'S OPEN]