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全仏オープン

錦織圭はナダルに敗退。「ナダルを崩し切れなかった」 [全仏オープン]

「最初は対応できたが、ナダルのボールを2セット、3セットと続けて打ち続けるのは難しい」。試合後の錦織はこう話している。

 一見するとナダルのテニスは軌道の高いボールを多用した、守備的なものに見えやすい。だが、彼と戦った選手たちが皆、何でもないように見えるボールを打ち損ない、ミスを積み重ねる理由は、そのボールの質にある。

 ナダルのボールはバウンド後にも失速せずに跳ね上がる。特に調子のいい日の彼のボールは、対戦相手がベースラインより後方に立っていたとしても肩口より上まで跳ね上がり、そのまま見送ればさらに上昇しようとする。また、サービスライン付近に落ちたような浅いボールでも勢いを失わず、相手に襲いかかっていく。
 高い集中力を維持して対処し続けられなければ、当然打ち損なうし、5セットマッチとなれば体力的にも厳しいものとなる。それがナダルとの戦いにおける難しさであり、彼の強さの根幹をなしている。
 思いきり打ってきたウィナー級のボールに対してだけではなく、通常のラリーでも体力とメンタルをゴリゴリと削られるのがナダルとの戦いなのだ。

 この辺りの感覚は、残念ながら映像では伝わりにくいし、たとえ生で見ていたとしても、すべての観客に理解されているわけではなく、誤解されている部分でもあるのではなかろうか。

 例えばナダルの対戦相手たちから、ナダルのディフェンス力は凄いという言葉は出るが、そのテニスが守備的すぎると言われないのは、彼の打つボールの威力の凄まじさが感覚的にその手の表現を許さないからだろうし、実際に戦った選手たちは、恐ろしく守備が堅い上にとんでもないボールが返され続けることに苦しめられる。
 今回の錦織のコメントは、全仏オープンのナダルと戦った初めての日本男子の、日本語による初の証言としてテニスファンには非常に貴重なものと言っていいだろう。

 錦織対ナダルのスコアはナダルから6-4 6-1 6-3。
 試合時間にして2時間2分。

 第1セットこそバックのクロスでナダルをフォアサイドに振り、つくったオープンスペースを突くという形が決まっていたが、ナダルのフットワークのレベルが上がると捕まり始めて、逆に走らされる形が増えた。

 「コートの中に入って打とうとしたが、バウンドが凄くてうまくいかなかった」と錦織は振り返り、「第1セットと同じように、どんどん打っていくべきだった」と続け、「彼のクレーでのプレーは隙がない。攻めていっても深く返してきて、そこで焦りが生まれた。彼と戦うには精神的にもタフにならないといけないと思う。悔いの残る試合だった」とまとめた。

 ナダルもここまでとは明らかに別の質のプレーを見せた。
 錦織にリターンが合わせられていると見れば、時速200km近い高速サービスと、強烈な回転のかかったスライススピン系のサービスを織り交ぜて的を絞らせず、左右はもちろん、軌道の高低も使い分けて錦織に自由に打たせなかった。
 いわゆる凡ミスの数は極端に減り、全仏を7度制し、1度しか負けていない最強のクレーコーターとしての存在感を存分に見せつけた。

 ナダルの勝利が決まった後にはオンコートで彼のバースデーを祝う観客たちの歌声が響いた。ここまではいい。だが、遅れて大会からもバースデーケーキをプレゼントするというイベントめいたことがあったのはやや複雑だった。
 すべてはナダルが試合に勝つ前提で用意されたものだろうし、実際、大会が発行するデイリーパンフには、試合の予想として「クレーのモンスターが、相手を食い破る」という意味の文字が踊っていた。

 ナダルは試合後に「彼はいつでもいいプレーをする選手だし、とても速い。彼はボールをとても早いタイミングでとらえる能力をもっていて、それを実に簡単にやって見せているけど、あれは実はテニスではもっとも難しいことで、彼はすでにそれができている。あと少しだけ安定したプレーができるようになること。僕が思うに彼の課題はそれだけだと思う。彼はいいバックハンドに、とてもいいフォアハンドをもっていて、動きも素早く、コートの中に入ってプレーする能力も高い。もう全部が揃っているんだ。このままでもいずれいい結果を出すだろうと思うよ」と錦織について語っている。
 
 この手のコメントをすべて言葉通りに受け取るのは楽観的にすぎるとしても、ナダル陣営が錦織との対戦が決まって以来、ピリピリムードになっていたのは事実で、かなり強い警戒心をもって準備していたのもまた事実。

 この錦織との4回戦を2週目に向けた重大なテストとしてとらえ、今できる範囲で、完璧な状態をつくってきたのだろう。試合がやや一方的になったのも、彼らがそれだけ周到に準備を整える必要を感じていればこそだろうし、「錦織は見るたびに強くなっている」と話していたのも本音だろう。

 「ナダルとは年齢も近く、自分が選手をやっている間はいつまでもいる選手」という認識を錦織はもっていると話し、「なんとか突破口を見つけて勝てるようにしたい」と続けている。

 まだ痛みを抱えたままだという脇腹や膝の痛みも構わず、今日の錦織は「ケガをしてもいいかなと思ってサービスも思い切り打っていった」という。強い覚悟をもって全力でぶつかって、ナダルに跳ね返された。
 「気持ちの面では粉砕された感じがする」と言いながら、ポイントまでに段階を踏んだ連続攻撃と組み立てが求められるクレーではまだ難しくても「ハードや芝でなら攻められる」とも話していたのが興味深い。

 錦織の中には恐らく、すでにナダルをはじめとしたトップクラスと互角に戦うための道筋が見え始めているのだろう。これから始まる芝、そしてハードコートのシリーズで、彼がどんな答えを見せてくれるのか。今はそれに期待しよう。


錦織圭 男子シングルス4回戦

錦織圭、4回戦後独占スタジオインタビュー(3分58秒)(PCのみ)


(Tennis Magazine/ライター・浅岡隆太)

Photo:Defending champion Spain's Rafael Nadal, right, shakes hands with Japan's Kei Nishikori after their fourth round match of the French Open tennis tournament at the Roland Garros stadium Monday, June 3, 2013 in Paris. Nadal won 6-4, 6-1, 6-3. (AP Photo/Michel Spingler)

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